2015年01月20日
エッセイ「Return to River」
エッセイ
「Return to River」
「Return to River」、アメリカのYahooで検索すると
コテージが一つ出て来るだけだ、
日本のYahooで検索してもこのブログが出てくるだけ、
しかし如何にも有りそうなタイトルである。
私が子供の頃近くに小川があり良く遊んだ、魚を取るのに
網など要らず手さえ有れば色んな生き物が取れた、
そんな生き物たちの一つが私の「小川感」を一変させた、
その生き物とは「トビケラ」の一種だ、川底の砂を集めて
巣を作り水中から水面、そして空中へと飛び立って行く
水生昆虫の一種である。
初めて「トビケラ」を手に取った小学生の私は
「この川は汚れてる」と思った、小川には生活排水も
流れ込んでいていたから余計にそう思ったのだろう。
小学校を卒業すると小川で遊ぶことも無くなり
やがて町を出て仕事に就く頃にはその小川さえ
都市化の波に消されてしまった。
貧しい家庭に育った私は、就職して賃金というものを
得ると色んな事に手を出したがどれも人並み以上の
レベルに達することもなく「浅く広く」だった。
それでも釣りと楽器と自転車はかなりのめり込んだ、
考えてみると釣りも楽器も自転車も普通の男なら
一度は手にしているはずである、そのためか職場を
色々異動しても誰とでも共通の話題を見つける事が出来た。
やがて結婚してまず楽器から遠ざかり自転車を降り職場の
駅伝チームにも付いていけなくなったが何故か釣竿だけは
形を変えて振り続けた。
色んな釣り道具を手にした、池の土手に生えてる矢竹を
使ったのは小学生の頃、近所の池でコイ釣りをしたのは
まず竹竿、その次に空き缶リール、これは空き缶に釣り糸を
巻き吸い込み仕掛けを投げる、竿なし手動スピニングリール
ってことになる、その次はスピニングリールとロッド、
その頃はまだ安い竹の六角スピニングロッドが売っていた、
1960年代の話だ。
20代になるとヘラブナ釣りを覚え、手首が痛くなるほど
釣れたことも有った、次にルアーフィッシング、クローズドフェイスリールに
始まり、ベイトキャスティング、スピニング、その頃はまだルアーを
やっている人は少なくいつも池は独り占めでルアーを
ポチャポチャ投げていれば雷魚が勝手に寄ってくる状態だったが
バスはまだ定着している池はほとんど無かった。
やがて自分で作ったルアーで雷魚が釣れるようになる頃
ルアーフィッシングがブームになり近所の池が賑やかになり
リリース問題や池の周りの近所迷惑などの問題が出てきて
ルアーの道具を職場の後輩にゴッソリ譲った、その頃すでに
次の釣りを考えていたそれがフライフィッシング、
20代の頃一度トライしたがキャスティングがままならず
挫折していた、そう、私は全て自己流なのです。
二度目のフライフィッシングにトライするために私は考えた、
「いきなり本命を狙うからダメなんだ、まずは身近な魚を狙えば良いのだ」と。
久しぶりに川で「シラハエ」(正式にはオイカワと言う)
をキャスティングを練習しながら釣る、
なんとか投げられるしポツポツ釣れる。
次はブルーギル、バカでも釣れる、フライを水面の
2センチ上でぶら下げると飛びついてくる。
琵琶湖で釣りをしてる人の横でフライロッドを
ギンギンに曲げるのでした。
次はバス、これまたロッドが弓なりで楽しい。
さて渓流へ行こう、ロッドも3番をメインにする、
鈴鹿山系には渓流が沢山有るがとりあえず近場の
滋賀県へ行く、三重県にも有るが険しく初心者の
自己流は危険である。
さて釣りにも色々種類が有って流行っている釣りも
有れば廃れて消えそうな釣りも有る、その中で
フライフィッシングの位置付けや如何に、
映画「A River Runs Through It」が流行り
日本でもこの釣りをする人が爆発的に増えたが
いつの間にか釣具屋からフライ用品の棚が消え
ブームも何処・・・
そりゃ映画のような魚はこの日本の自然の
中にはまず居ないからね、期待して始めた人は
がっかりしてやめるよね。
フライフィッシングはやってる人の少なさの割には
ウェブサイトやブログをやってる人が多いと思う、
何故かと考えると至極当然な事なのです、
まずほとんどのフライフィッシャーはリリースする、
リリースするなら写真を撮る、せっかく撮ったなら
皆んなに見てもらおう・・・となる、
私もその流れに乗ってホームページを公開し始めた
何時から始めたのか忘れてしまったが2000年の頃?
(誰かご存知の方おられますか?)
そのタイトルこそ「Return to River」なのです、
私のネット上での名前を「おいかわ」としているのも
子供の頃川にいくらでも居て遊んだ魚を選んだ訳で
フルネームにすれば「おいかわ むつお」です
オイカワとカワムツを入れてます。
その頃はまだ昔の川の記憶を忘れないためにタイトルを
決めたつもりでしたが義理の父そして妻と相次いで肺癌で
亡くしさらに自分まで入院や手術、その間二年ほど釣りから
離れてまた川に戻る事が出来ました、
それも「Return to River」だ!と感じた
今までアマゴや岩魚を釣っ来てそれらの魚の事も知るようになって
鮭や鱒も川で生まれて川に戻る・・・
「Return to River」じゃないか!
と確信した。
私にとって「Return to River」とは
三つの意味がありました、
幼い頃の記憶、
試練からの復活、
鮭や鱒の帰巣本能、
以上
私の「Return to River」への思いです。

「Return to River」
「Return to River」、アメリカのYahooで検索すると
コテージが一つ出て来るだけだ、
日本のYahooで検索してもこのブログが出てくるだけ、
しかし如何にも有りそうなタイトルである。
私が子供の頃近くに小川があり良く遊んだ、魚を取るのに
網など要らず手さえ有れば色んな生き物が取れた、
そんな生き物たちの一つが私の「小川感」を一変させた、
その生き物とは「トビケラ」の一種だ、川底の砂を集めて
巣を作り水中から水面、そして空中へと飛び立って行く
水生昆虫の一種である。
初めて「トビケラ」を手に取った小学生の私は
「この川は汚れてる」と思った、小川には生活排水も
流れ込んでいていたから余計にそう思ったのだろう。
小学校を卒業すると小川で遊ぶことも無くなり
やがて町を出て仕事に就く頃にはその小川さえ
都市化の波に消されてしまった。
貧しい家庭に育った私は、就職して賃金というものを
得ると色んな事に手を出したがどれも人並み以上の
レベルに達することもなく「浅く広く」だった。
それでも釣りと楽器と自転車はかなりのめり込んだ、
考えてみると釣りも楽器も自転車も普通の男なら
一度は手にしているはずである、そのためか職場を
色々異動しても誰とでも共通の話題を見つける事が出来た。
やがて結婚してまず楽器から遠ざかり自転車を降り職場の
駅伝チームにも付いていけなくなったが何故か釣竿だけは
形を変えて振り続けた。
色んな釣り道具を手にした、池の土手に生えてる矢竹を
使ったのは小学生の頃、近所の池でコイ釣りをしたのは
まず竹竿、その次に空き缶リール、これは空き缶に釣り糸を
巻き吸い込み仕掛けを投げる、竿なし手動スピニングリール
ってことになる、その次はスピニングリールとロッド、
その頃はまだ安い竹の六角スピニングロッドが売っていた、
1960年代の話だ。
20代になるとヘラブナ釣りを覚え、手首が痛くなるほど
釣れたことも有った、次にルアーフィッシング、クローズドフェイスリールに
始まり、ベイトキャスティング、スピニング、その頃はまだルアーを
やっている人は少なくいつも池は独り占めでルアーを
ポチャポチャ投げていれば雷魚が勝手に寄ってくる状態だったが
バスはまだ定着している池はほとんど無かった。
やがて自分で作ったルアーで雷魚が釣れるようになる頃
ルアーフィッシングがブームになり近所の池が賑やかになり
リリース問題や池の周りの近所迷惑などの問題が出てきて
ルアーの道具を職場の後輩にゴッソリ譲った、その頃すでに
次の釣りを考えていたそれがフライフィッシング、
20代の頃一度トライしたがキャスティングがままならず
挫折していた、そう、私は全て自己流なのです。
二度目のフライフィッシングにトライするために私は考えた、
「いきなり本命を狙うからダメなんだ、まずは身近な魚を狙えば良いのだ」と。
久しぶりに川で「シラハエ」(正式にはオイカワと言う)
をキャスティングを練習しながら釣る、
なんとか投げられるしポツポツ釣れる。
次はブルーギル、バカでも釣れる、フライを水面の
2センチ上でぶら下げると飛びついてくる。
琵琶湖で釣りをしてる人の横でフライロッドを
ギンギンに曲げるのでした。
次はバス、これまたロッドが弓なりで楽しい。
さて渓流へ行こう、ロッドも3番をメインにする、
鈴鹿山系には渓流が沢山有るがとりあえず近場の
滋賀県へ行く、三重県にも有るが険しく初心者の
自己流は危険である。
さて釣りにも色々種類が有って流行っている釣りも
有れば廃れて消えそうな釣りも有る、その中で
フライフィッシングの位置付けや如何に、
映画「A River Runs Through It」が流行り
日本でもこの釣りをする人が爆発的に増えたが
いつの間にか釣具屋からフライ用品の棚が消え
ブームも何処・・・
そりゃ映画のような魚はこの日本の自然の
中にはまず居ないからね、期待して始めた人は
がっかりしてやめるよね。
フライフィッシングはやってる人の少なさの割には
ウェブサイトやブログをやってる人が多いと思う、
何故かと考えると至極当然な事なのです、
まずほとんどのフライフィッシャーはリリースする、
リリースするなら写真を撮る、せっかく撮ったなら
皆んなに見てもらおう・・・となる、
私もその流れに乗ってホームページを公開し始めた
何時から始めたのか忘れてしまったが2000年の頃?
(誰かご存知の方おられますか?)
そのタイトルこそ「Return to River」なのです、
私のネット上での名前を「おいかわ」としているのも
子供の頃川にいくらでも居て遊んだ魚を選んだ訳で
フルネームにすれば「おいかわ むつお」です
オイカワとカワムツを入れてます。
その頃はまだ昔の川の記憶を忘れないためにタイトルを
決めたつもりでしたが義理の父そして妻と相次いで肺癌で
亡くしさらに自分まで入院や手術、その間二年ほど釣りから
離れてまた川に戻る事が出来ました、
それも「Return to River」だ!と感じた
今までアマゴや岩魚を釣っ来てそれらの魚の事も知るようになって
鮭や鱒も川で生まれて川に戻る・・・
「Return to River」じゃないか!
と確信した。
私にとって「Return to River」とは
三つの意味がありました、
幼い頃の記憶、
試練からの復活、
鮭や鱒の帰巣本能、
以上
私の「Return to River」への思いです。

2014年05月21日
石徹白川今昔
石徹白村今昔
石徹白川は今まで数回釣りに行きましたが
今年から更に釣行回数が増えそうです。
そこで石徹白川および石徹白地区について
色々書いてみようと思います。
この喧噪な時代に有りながら石徹白の町並みは
静かなたたずまいを保った良い所だと思います。
石徹白は昔から白山信仰の基地として栄え
多くの宿房が有りそのおもてなしの心が現在の
スキーの民宿で発揮され近くに有るスキー場は
東海地方でもトップクラスの人気です。
私も一応釣り人なので魚の話をします。
以前からイワナ釣りの良い川として従兄弟
から聞いていました。
イワナだけではなくアマゴも居ます、
しかし石徹白を最後まで下ると日本海へ
到達します、なのにアマゴ?そうです誰かが
移植したのです。
石徹白川は九頭竜川の一つの支流に過ぎませんが
国土地理院の地図をよ〜〜く見ると石徹白川が
九頭竜川の本流に思えてなりません。
九頭竜川は大正時代から電源開発が行われ
ダムが造られその影響で石徹白川上流の大滝(落差40メートル)
まで遡上していたサクラマスが上らなくなり
河川残留型のヤマメも激減しました。
その事を心配した須甲末太郎と言う人が昭和4年から
アマゴの移植を始め長良川産のアマゴの親魚36匹を
最初に放流した川こそ今現在私たち釣り人を夢中に
させる峠川でした、この放流の様子を知る由も有りませんが
私の独断的妄想で書いたのが「朱点の誘惑」です。
今の峠川C&Rはイワナがメインですがそのイワナの
スレ具合と言えば目が合っても逃げもせず悠々とその場で
泳ぎ続けるのです、そんなイワナが釣れた時の楽しさは
他の釣りでは味わえないのでしょうか?
もちろんアマゴも居てその魚が須甲さんが最初に放流した
アマゴの直系の可能性は限りなく少ないですがルーツを
知っておくのも良いと思います。
須甲末太郎さんはその後も移植活動を続け九頭竜川の
流域のほとんどにアマゴを放流し昭和11年には養殖場も
設立し外来種のニジマスやカワマス(ブルック?)を
養殖しニジマスは支流で自然繁殖したそうだ。
ある支流では途中の滝が魚止めとなり滝の上には
魚が居なかったが須甲末太郎さんはそこにもイワナを
放流したそうです、ウグイも九頭竜川上流には
居なかったそうですが放流したそうです。
他にアマゴの移植は古くから有り荘川の小さな支流の
アマゴ谷は江戸時代の飛騨の案内書に平家落人による
放流伝説として書かれていたそうです。
もしも須甲末太郎と言う人物が存在しなかったら
アマゴどころかイワナももっと少なかったとも
考えられます、これからも石徹白川が良い釣り場で
有る事を願って釣りに行きます。
参考
石徹白区 公式ホームページ
鈴野藤夫 著「峠を越えた魚」平凡社
石徹白川は今まで数回釣りに行きましたが
今年から更に釣行回数が増えそうです。
そこで石徹白川および石徹白地区について
色々書いてみようと思います。
この喧噪な時代に有りながら石徹白の町並みは
静かなたたずまいを保った良い所だと思います。
石徹白は昔から白山信仰の基地として栄え
多くの宿房が有りそのおもてなしの心が現在の
スキーの民宿で発揮され近くに有るスキー場は
東海地方でもトップクラスの人気です。
私も一応釣り人なので魚の話をします。
以前からイワナ釣りの良い川として従兄弟
から聞いていました。
イワナだけではなくアマゴも居ます、
しかし石徹白を最後まで下ると日本海へ
到達します、なのにアマゴ?そうです誰かが
移植したのです。
石徹白川は九頭竜川の一つの支流に過ぎませんが
国土地理院の地図をよ〜〜く見ると石徹白川が
九頭竜川の本流に思えてなりません。
九頭竜川は大正時代から電源開発が行われ
ダムが造られその影響で石徹白川上流の大滝(落差40メートル)
まで遡上していたサクラマスが上らなくなり
河川残留型のヤマメも激減しました。
その事を心配した須甲末太郎と言う人が昭和4年から
アマゴの移植を始め長良川産のアマゴの親魚36匹を
最初に放流した川こそ今現在私たち釣り人を夢中に
させる峠川でした、この放流の様子を知る由も有りませんが
私の独断的妄想で書いたのが「朱点の誘惑」です。
今の峠川C&Rはイワナがメインですがそのイワナの
スレ具合と言えば目が合っても逃げもせず悠々とその場で
泳ぎ続けるのです、そんなイワナが釣れた時の楽しさは
他の釣りでは味わえないのでしょうか?
もちろんアマゴも居てその魚が須甲さんが最初に放流した
アマゴの直系の可能性は限りなく少ないですがルーツを
知っておくのも良いと思います。
須甲末太郎さんはその後も移植活動を続け九頭竜川の
流域のほとんどにアマゴを放流し昭和11年には養殖場も
設立し外来種のニジマスやカワマス(ブルック?)を
養殖しニジマスは支流で自然繁殖したそうだ。
ある支流では途中の滝が魚止めとなり滝の上には
魚が居なかったが須甲末太郎さんはそこにもイワナを
放流したそうです、ウグイも九頭竜川上流には
居なかったそうですが放流したそうです。
他にアマゴの移植は古くから有り荘川の小さな支流の
アマゴ谷は江戸時代の飛騨の案内書に平家落人による
放流伝説として書かれていたそうです。
もしも須甲末太郎と言う人物が存在しなかったら
アマゴどころかイワナももっと少なかったとも
考えられます、これからも石徹白川が良い釣り場で
有る事を願って釣りに行きます。
参考
石徹白区 公式ホームページ
鈴野藤夫 著「峠を越えた魚」平凡社

2014年03月31日
ムハンアマゴはどうなるのか?
2005年のある日良く晴れていたがあまり釣れなかった、
釣っている途中から枯れ葉が流れてくるようになった
晴れているのに枯れ葉が流れて来るのは上流で
何かが起こっている事と判断して釣りをやめて
林道を歩いていると軽自動車が下って来て
「釣れました?」と運転手が話しかけて来た
「あまり釣れません」と私は答えながら後ろの席も
見てみるとウェットスーツ姿の人が寒そうに震えていた、
私は密猟だと思ったが密猟の人が話しかけてくるはずが無い。
数年経ってその谷で「ムハンアマゴ」が釣れた

その時点で佐藤成史さんの著書でそう言う魚の存在は知っていたが
まさか私が行く谷に居るとは思わなかった、名前としては「イワメ」と言うが
この名前を名乗れるのは大分県、三重県、茨城県の三県のそれぞれ一つの谷に
生息する「ムハンアマゴ(ヤマメ)」だけなので私が釣ったのは「ムハンアマゴ」
と言う事になりその後色々調べてみると私が行く谷でも生息していたらしい、
しかし2005年のの調査で確認されず「絶滅したかも知れない」との結論が
出たそうだ。
どうやら私が密猟者と思った人たちは調査の人たちだったようだ、
しかし、私が釣ったのは2007年で「居ない」と判断された後、
次に釣ったのは2009年「ムハンアマゴ」の特徴をしっかり撮影出来た

三匹目は2011年偶然とは思うが奇数年ばかりだった
三匹はそれぞれがそれほど離れていないポイントで釣れた、
2004、2008に大増水が有ったがその後でも釣れたと言う事は
魚は相当の忍耐力を持っている。

調査隊が一旦居なくなったと判断した魚がまだ居たと言う事は
どういう事か??と妄想してみた。
調査隊の判断が間違っていたかも知れないが間違っていなかったとすると・・・
わたしはこう考えた、
見た目は普通のネイティブアマゴの中に「ムハンアマゴ」のDNAを持った
アマゴが複数居てその内のペアーが産卵して「ムハンアマゴ」が復活したのではないか?
一匹目の魚と二匹目の魚はひょっとすると親子なのかも知れないとさえ思ってしまう。
つい数年前にも大増水がありこの谷でも谷の斜面が崩れたり林道も数カ所崩落して
流れが変わった箇所も多く最終集落の前の流れは3度の大増水で魚は居なくなってしまった
いまこの時点で谷の中に「ムハンアマゴ」は居るのか??
もしもまた釣れたら魚の繁殖能力を尊敬したい、
それを確かめるためにも私はこの谷へ通い続けたい。
釣っている途中から枯れ葉が流れてくるようになった
晴れているのに枯れ葉が流れて来るのは上流で
何かが起こっている事と判断して釣りをやめて
林道を歩いていると軽自動車が下って来て
「釣れました?」と運転手が話しかけて来た
「あまり釣れません」と私は答えながら後ろの席も
見てみるとウェットスーツ姿の人が寒そうに震えていた、
私は密猟だと思ったが密猟の人が話しかけてくるはずが無い。
数年経ってその谷で「ムハンアマゴ」が釣れた

その時点で佐藤成史さんの著書でそう言う魚の存在は知っていたが
まさか私が行く谷に居るとは思わなかった、名前としては「イワメ」と言うが
この名前を名乗れるのは大分県、三重県、茨城県の三県のそれぞれ一つの谷に
生息する「ムハンアマゴ(ヤマメ)」だけなので私が釣ったのは「ムハンアマゴ」
と言う事になりその後色々調べてみると私が行く谷でも生息していたらしい、
しかし2005年のの調査で確認されず「絶滅したかも知れない」との結論が
出たそうだ。
どうやら私が密猟者と思った人たちは調査の人たちだったようだ、
しかし、私が釣ったのは2007年で「居ない」と判断された後、
次に釣ったのは2009年「ムハンアマゴ」の特徴をしっかり撮影出来た

三匹目は2011年偶然とは思うが奇数年ばかりだった
三匹はそれぞれがそれほど離れていないポイントで釣れた、
2004、2008に大増水が有ったがその後でも釣れたと言う事は
魚は相当の忍耐力を持っている。

調査隊が一旦居なくなったと判断した魚がまだ居たと言う事は
どういう事か??と妄想してみた。
調査隊の判断が間違っていたかも知れないが間違っていなかったとすると・・・
わたしはこう考えた、
見た目は普通のネイティブアマゴの中に「ムハンアマゴ」のDNAを持った
アマゴが複数居てその内のペアーが産卵して「ムハンアマゴ」が復活したのではないか?
一匹目の魚と二匹目の魚はひょっとすると親子なのかも知れないとさえ思ってしまう。
つい数年前にも大増水がありこの谷でも谷の斜面が崩れたり林道も数カ所崩落して
流れが変わった箇所も多く最終集落の前の流れは3度の大増水で魚は居なくなってしまった
いまこの時点で谷の中に「ムハンアマゴ」は居るのか??
もしもまた釣れたら魚の繁殖能力を尊敬したい、
それを確かめるためにも私はこの谷へ通い続けたい。

2012年04月07日
炭焼き資料館(妄想版)

このブログには時々炭焼き小屋や炭焼きの窯跡が出てきますが
その町の炭焼き産業の歴史が400年を超えました!
にもかかわらず町の資料館には何一つ展示されていません!
「これでも資料館か??!いつか抗議してやる!」(多分しないだろう)
そんな訳でこの場を使って私が資料館をぶっ建てます、
ただし、たかが私の十数年のこの町での釣りの経験と山の本と
ウィキペディア等のネット情報をミックスした妄想による資料館です。
1、種類
ここでは一般的な木炭について書きます。
種類は大きく分けて白炭と黒炭の二種類でこの集落は黒炭を焼き
白炭として有名なのが備長炭です、焼いた後の冷却に大きな違いが有り
白炭は窯から出して冷却するのに対して黒炭は窯を密閉して自然冷却します。
簡単にまとめると白炭は窯の外で灰に土や水を混ぜて急に冷却するので
硬く着火しにくく燃焼時間が長いが黒炭は窯の中で自然冷却するので性質は
ほぼ逆になると言う事だそうです。
その他にも色々違いが有りますが詳しいことはウィキペディアに書いて有るので
参考にして下さい。
2、炭焼き小屋と窯跡の数
私は他の産地の状況を知らないので断言できませんがかなり多いと
思います、町の面積のすべてを一本の川の流域が占めていてその内の
50パーセント程度の谷や沢を釣ったり歩いたりして実際に見た小屋や釜跡は
70基を超えています、特に最奥の集落の領内では50基ほど見ました。
その中でも一番はなんと言っても「炭焼き谷」、もちろん仮名ですが
行った事の有る人ならば必ずそう思います、まず現役の小屋が3基!
源流の絵地図を参考にすれば流程約6キロに総数30基の小屋と釜跡が
有ります、この密度は全国的にどうなんでしょう??かなり上位かと思います。
この山系の西側にも多くの釜跡が有りますが谷の上流域に偏っている様で
現役の小屋はほとんど見ません、やはり江戸時代から集落の名前が付いた
ブランドの炭を供給するには多くの生産拠点が必要だった証拠かと考えます。
3、釜跡の形と様子
釣りを終えて林道を下りながら釜跡を良く眺めてみると形は円形と四角形で
大きさは最大でも四角形の長辺が3メートルほどで円形は直径1メートルくらいから
2メートル50センチていどまでで一番小さい物はどうも自宅用か林業や山葵栽培の
片手間でやっていたのではないかと私は思います、実際に山葵田の跡の横に
小さな釜跡が並んでいました、四角形の大きな釜跡は比較的広い場所に有り
数人で作業していたのではないか、円形の釜跡が二つ並んだ所では二つの
窯で交互に焼いて「切り出し」、「焼き」、「俵詰め」を順繰りにして効率的に
出荷を進めたのではないかと思い私ならそうします。
現在稼動している小屋は斜面の近くに有り小屋の近くで原木と焼く木を切り出し
斜面から落としています、昔は複数の人がやっていたと思いますが今は
老人が一人ですべての作業をしています、切り出し作業は良く見ます。
4、場所
小屋や釜跡が見られる場所は様々で国道や県道に近い所も有り私がこの町で
釣りを始めた頃は国道から炭焼きの煙が幾つか上がっているのが見えました。
標高は150メートルから750メートル以上まで有り谷沿いが多い事は確かですが
谷への近道を探して尾根道に入った時にも有ったのでまだまだ知らない所にも
有りそうです、谷沿いに有る窯跡でも妙に流れに近い場所にも有り(2メートル程度)
「なぜこんなに流れに近いのだろう?」と不思議に思いましたが白炭を焼く人も
居たのではないかと考えます。
炭焼きはほとんど山奥で焼いていたと言えます、私たち渓流の釣り人はそんな炭焼き道を
利用して入ってますが昔の炭焼き職人の強靭さを思い知らされるばかりで驚く事に
炭焼き小屋の有る谷の中で稲を育てた人も居たそうです、ひょっとすると米俵を背負って
炭焼き道を上がったのかも??すごい!!
5、炭焼きの将来
はっきり言ってこの町から炭焼きの煙が途絶えるのは数年後と思います、
十数年前は現役小屋が15基ほど有りましたが今現在は5基有るかどうか・・・
炭を焼いている人もかなり年配の人ばかりで専業とは言い難く最近煙が上がる事も
すっかり減りました。
本物の資料館で展示しないと・・・
そう言えば昨年の秋に訪れた時は資料館の周辺の石垣を調査してました、
昔は城だったらしいですが貴重な産業は二の次??それとも無視??
では今まで撮って来た画像を紹介します。
この記事の一番上の写真が一番好きで古い自転車と煙が上がる炭焼き小屋が
最高に良いと思います、21世紀の貴重な1シーン!

「炭焼き谷」の一番奥の現役小屋でほとんどの現役の小屋には作業小屋も並んでます。

集落に入る手前の県道沿いの小屋で最近ちょっと静かですが一昨年前までは
結構盛んに焼いてました。

多分「箱庭の谷」の森ですが炭焼きの人達が原木を切り出してこの様な
森になったのだと思います、やがて落ち葉の下からまた木が生えて来て
原木になるはずですがその頃には・・・

炭焼き小屋の早春の積雪風景!

どこの小屋か忘れましたが積まれた原木が写ってます、細い木は炭になり
太目の木が炭を焼きます。

秋の炭焼き小屋、横の橋は今にも落ちそうで注意して渡ってます

これが一番新しい小屋である年釣りをしていると沢の出合いに車が停まっていて
次の週にもまた釣りに来てまた同じ場所に同じ車が停まってました!
「え!登山者遭難??」と思ったら沢を少し入った所に新しい小屋が出来てました、
おそらく以前有った釜跡を再利用していると思います。

これも何処か忘れましたが積まれた薪の高さが印象に残ってます

これは「炭焼き谷」のペアーの小屋

ここの後ろの道路は以前はもっと離れていて小屋の周囲はもっと広かったです
その頃の日当たりの良さは一等地でした、横に有った作業小屋には郵便ポストも
掛かってましたが今は小屋も無くなり窯も無残な姿になってます。

最後は四角形の釜跡です

2012年04月01日
エッセイ「素晴らしき奇跡の釣り」
「素晴らしき奇跡の釣り」
1、フライフィッシングに出会う以前
私は小学生の頃から勉強嫌いで練習嫌いだった、
学校から帰ってすぐに川で遊んでいると同級生に見つかって
担任にチクられて「XX君!宿題をしてから遊びなさい!」とお目玉、
その頃の名古屋郊外の小川にはまだ魚が多く森にはウサギもいた
そんな綺麗な小川で私が見たものは川底に沈んでいる同じような形の
砂の塊、その塊を見ると「何か生き物が入ってる!!こんなのが居るのか」
その時私は「この川はもうだめだ」と思ったがフライフィッシングを始めて
あの水中の生き物がカディスだった事で綺麗な小川だった事を知った、
担任の先生や同級生には判るまい。
中学校の夏休みに姉が名古屋のローカル放送局へ私の名前でクイズ番組に
はがきを送って抽選で残った、12問のクイズをイエスノーで答え、途中6問目までは
隣と相談できる結構軟弱なクイズ番組だった、私が間違えた10問目の問題が
なんと「カゲロウ」の問題で、私は「しめた!」と思った、その頃私はウスバカゲロウと
言うカゲロウの一種を知っていたからだ、問題の内容は忘れたが自信を持って出した
回答は見事に間違えた、私が唯一知っていた「ウスバカゲロウ」は水生昆虫ではなく
少数派の陸生昆虫で幼虫時代を「蟻地獄」と言い砂に潜って蟻を狙うカゲロウだった、
フライフィッシャーの皆さん!カゲロウは水生昆虫ばかりではありませんよ。
結局私はフライフィッシングを始める前から何か見えない糸で結ばれていたのかも
知れない。
2、奇跡の釣りで奇跡の山系で奇跡の魚を釣る
20代の前半に一度フライフィッシングを始めようとキャスティングの
練習をちらっとしたが即!「こんなのできねぇ」と判断してルアー
フィッシングを始め同時にへら鮒釣りも始めた、考えてみるとリリース
する釣りばかりだった、やがて池にはバスやブルーギルが増えて
へら鮒が釣りにくくなり雷魚も減り自作のルアーで釣れるようになった頃
雑誌の特集号でフライで釣れる魚がとても多い事を知り「簡単に釣れる魚から
釣っていけば続けられるのではないか?」と考えてブルーギル、バス、オイカワ
から始めたのが40代、考えてみればフライフィッシングが始まったのは
イギリスの上流社会でそのままならば私が巡り合う事は無かっただろう、
イギリス人がアメリカ大陸に渡らなかったら、アメリカで庶民に広まらなかったら・・・
一度挫折して遠回りしてたどり着いたからこそフライフィッシングは私にとって
「奇跡の釣り」と言えます。
私がよく行くフィールドには単に「イワナ」「アマゴ」では括れない種の渓流魚が
存在し他にも歴史、産業、地質、気象、生物、登山、等、研究課題になりうる
事が多くフライフィッシングを通じて多くの疑問と発見を私に提供してくれる
「奇跡の山系」です。
川に行けば炭焼き小屋があり生木を焼く懐かしい香りが癒してくれる、
時々現れる炭焼きの窯跡はこの水系だけでも100近く有るはず。
そして釣れる魚はとても綺麗で様々に変化する「アマゴ模様」を楽しむ
「奇跡の魚」が居る「奇跡の川」がそこに在る。
私ほど恵まれたフライフィッシャーはどれほどいるのだろう?
素晴らしき奇跡の釣り!
1、フライフィッシングに出会う以前
私は小学生の頃から勉強嫌いで練習嫌いだった、
学校から帰ってすぐに川で遊んでいると同級生に見つかって
担任にチクられて「XX君!宿題をしてから遊びなさい!」とお目玉、
その頃の名古屋郊外の小川にはまだ魚が多く森にはウサギもいた
そんな綺麗な小川で私が見たものは川底に沈んでいる同じような形の
砂の塊、その塊を見ると「何か生き物が入ってる!!こんなのが居るのか」
その時私は「この川はもうだめだ」と思ったがフライフィッシングを始めて
あの水中の生き物がカディスだった事で綺麗な小川だった事を知った、
担任の先生や同級生には判るまい。
中学校の夏休みに姉が名古屋のローカル放送局へ私の名前でクイズ番組に
はがきを送って抽選で残った、12問のクイズをイエスノーで答え、途中6問目までは
隣と相談できる結構軟弱なクイズ番組だった、私が間違えた10問目の問題が
なんと「カゲロウ」の問題で、私は「しめた!」と思った、その頃私はウスバカゲロウと
言うカゲロウの一種を知っていたからだ、問題の内容は忘れたが自信を持って出した
回答は見事に間違えた、私が唯一知っていた「ウスバカゲロウ」は水生昆虫ではなく
少数派の陸生昆虫で幼虫時代を「蟻地獄」と言い砂に潜って蟻を狙うカゲロウだった、
フライフィッシャーの皆さん!カゲロウは水生昆虫ばかりではありませんよ。
結局私はフライフィッシングを始める前から何か見えない糸で結ばれていたのかも
知れない。
2、奇跡の釣りで奇跡の山系で奇跡の魚を釣る
20代の前半に一度フライフィッシングを始めようとキャスティングの
練習をちらっとしたが即!「こんなのできねぇ」と判断してルアー
フィッシングを始め同時にへら鮒釣りも始めた、考えてみるとリリース
する釣りばかりだった、やがて池にはバスやブルーギルが増えて
へら鮒が釣りにくくなり雷魚も減り自作のルアーで釣れるようになった頃
雑誌の特集号でフライで釣れる魚がとても多い事を知り「簡単に釣れる魚から
釣っていけば続けられるのではないか?」と考えてブルーギル、バス、オイカワ
から始めたのが40代、考えてみればフライフィッシングが始まったのは
イギリスの上流社会でそのままならば私が巡り合う事は無かっただろう、
イギリス人がアメリカ大陸に渡らなかったら、アメリカで庶民に広まらなかったら・・・
一度挫折して遠回りしてたどり着いたからこそフライフィッシングは私にとって
「奇跡の釣り」と言えます。
私がよく行くフィールドには単に「イワナ」「アマゴ」では括れない種の渓流魚が
存在し他にも歴史、産業、地質、気象、生物、登山、等、研究課題になりうる
事が多くフライフィッシングを通じて多くの疑問と発見を私に提供してくれる
「奇跡の山系」です。
川に行けば炭焼き小屋があり生木を焼く懐かしい香りが癒してくれる、
時々現れる炭焼きの窯跡はこの水系だけでも100近く有るはず。
そして釣れる魚はとても綺麗で様々に変化する「アマゴ模様」を楽しむ
「奇跡の魚」が居る「奇跡の川」がそこに在る。
私ほど恵まれたフライフィッシャーはどれほどいるのだろう?
素晴らしき奇跡の釣り!

2012年03月31日
何か有る
無斑アマゴ(イワメ)と言うアマゴやヤマメの変種が存在しますが
生息する谷は数本の水系の限られた谷でしか無い、その生息地は
ほぼ一直線に並ぶと言うが・・・その関連性については未だに謎である。
さて
ある所に川が二本有ります、Bの川と1の川、Bの川にはCの谷とDの谷が有り
1の川には2の谷と3の谷が有ります。
Cの谷と2の谷には無斑アマゴが居てDの谷と3の谷には黒点と朱点が
ほとんど無いアマゴが居ます。
Cの谷と2の谷はX山系の同じ斜面、Dの谷と3の谷はZ山系の同じ斜面で
それぞれの斜面は向かい合っている。
そして1の川は江戸時代の途中までA川と言う大きな川の支流だった、
Bの川もAの川の支流でそれぞれの合流地点はとても近い。
え?字だけでは判りにくい?
私が図に書いてしまうと何処か判ってしまうので皆さんで紙に書いてみて
下さい。
Cの谷の無斑アマゴ(ムハン)と2の谷のムハン、Dの谷の点の無いアマゴ(ムテン)
と3の谷のムテンが私には何か関連が有るとしか思えません。
陸封後に出現したのならばこのエリアの二本の川に何かの共通点が
あるのではないか?陸封以前に出現していたのならA川の他の支流に
出現していても不思議ではないのでやはりこのエリアが気になる、
どちらの山系も石灰質の地質である事が一番大きな共通点、
私はこの要因がとても気になる。
X山系には更に無斑イワナと流紋イワナが近い場所に居る、
つまりムハン渓魚の周辺には模様に変化の有る渓魚が居る、
と私は確信します、
イワナについては判りませんがアマゴは劣勢遺伝だそうです、
このエリアのアマゴの変化が周辺の環境への進化なのか退化なのか
それとも単なる突然変異の遺伝子化なのか何にしても普通のアマゴよりも
かすかに優性遺伝が強いのではないか?
この種の研究者はどこまで把握しているのだろう?
以上!妄想大暴走でした。
生息する谷は数本の水系の限られた谷でしか無い、その生息地は
ほぼ一直線に並ぶと言うが・・・その関連性については未だに謎である。
さて
ある所に川が二本有ります、Bの川と1の川、Bの川にはCの谷とDの谷が有り
1の川には2の谷と3の谷が有ります。
Cの谷と2の谷には無斑アマゴが居てDの谷と3の谷には黒点と朱点が
ほとんど無いアマゴが居ます。
Cの谷と2の谷はX山系の同じ斜面、Dの谷と3の谷はZ山系の同じ斜面で
それぞれの斜面は向かい合っている。
そして1の川は江戸時代の途中までA川と言う大きな川の支流だった、
Bの川もAの川の支流でそれぞれの合流地点はとても近い。
え?字だけでは判りにくい?
私が図に書いてしまうと何処か判ってしまうので皆さんで紙に書いてみて
下さい。
Cの谷の無斑アマゴ(ムハン)と2の谷のムハン、Dの谷の点の無いアマゴ(ムテン)
と3の谷のムテンが私には何か関連が有るとしか思えません。
陸封後に出現したのならばこのエリアの二本の川に何かの共通点が
あるのではないか?陸封以前に出現していたのならA川の他の支流に
出現していても不思議ではないのでやはりこのエリアが気になる、
どちらの山系も石灰質の地質である事が一番大きな共通点、
私はこの要因がとても気になる。
X山系には更に無斑イワナと流紋イワナが近い場所に居る、
つまりムハン渓魚の周辺には模様に変化の有る渓魚が居る、
と私は確信します、
イワナについては判りませんがアマゴは劣勢遺伝だそうです、
このエリアのアマゴの変化が周辺の環境への進化なのか退化なのか
それとも単なる突然変異の遺伝子化なのか何にしても普通のアマゴよりも
かすかに優性遺伝が強いのではないか?
この種の研究者はどこまで把握しているのだろう?
以上!妄想大暴走でした。

2011年06月26日
「野望の谷」 完結編
「野望の谷」完結編 再会、そして・・・
前回までのあらすじ
伊藤と鈴木の先輩後輩コンビは鈴鹿山系の
谷を訪れて何時もの様に釣りをしていたが堰堤を越える時に
掴んでいた木が抜けて二人共々堰堤の下に落ちたかに見えたが
落ちたはずの場所には堰堤もなかった、伊藤が薄うすタイムスリップを
感じていたその背後に現れたのは織田信長だった、
未知の物に興味を抱きやすい武将と21世紀の二人の青年を
フライフィッシングが結び寄せた、武将は二人が困らない様に
書状を渡し街道に戻り、師匠と弟子の二人のフライフィッシャーは
残された唯一の楽しみを思う存分楽しんでいると
「ダダーーーン!」と森を引き裂くほどの銃声が轟いた
はたして、その銃弾は誰を狙っていたのか、信長は無事か。
伊藤にはすでに解っていた、それは信長を狙った暗殺者の
銃声だった、暗殺者の火縄銃は二つ玉と言う連発のような物で
その名手をもってしても暗殺は成功しなかった。
「先輩!!今のは?鉄砲?」
「そうだ、今日の日日を聞いてすぐ解ってた、お前に言うと
信長さんに絶対言ってただろう、だから黙ってた、今日の
暗殺は失敗した事になってるから心配するな、でないと
本能寺は無いからな」
とは言いながらやはり心配する気持ちは消えない、しかし
心配と裏腹に爆釣は続き釣りの宴は終わりを迎えた。
上流で掛かる街道の橋は21世紀と変わらない場所に有りほっとして
伊藤が渡り始める、この時代に掛かっているのだから橋は新しいと
思っていたが掛け替え時らしくかなり痛んでいた、続いて鈴木も
渡り始める、数秒後伊藤は背後から伝わって来る揺れを感じた、
「バキッ!」と音がし振り返った直後「あーーーぁぁ!」と
言う声と共に波紋も飛沫も起こらず水面に消えて行った
「鈴木ーーーー!、あ!行っちまった」
しばらく周辺を捜したが見つからなかった、どうやら
またタイムスリップに陥ってしまった様だ、せめて21世紀に
戻る事を伊藤は願うしかなかった。
いくら街道とは言っても山の峠道でありこの時代の夕暮れは
二人の時は冷静で強気で居られる伊藤さえも不安に陥れる。
不意に背後から物音がしたが不安のためか何の音か確かめないうちに
小走りになってしまう、足音の主は獣かはたまた人間か妖怪か
山賊も居るかも知れない、そんな気持ちがついに全速になりそして
一度振り向いて何も居ない事を確かめて前を向いた時、目の前には
井戸が有った、山道を行きかう人たちのための水飲み場にも
なっている井戸で蓋は無く壁にも囲まれていない、
伊藤は井戸が有る事は認識しているが体はもう止まらず真っ暗な
井戸に吸い込まれていった。
暗闇に吸い込まれたはずのタイムスリッパーは林道の横で目を覚ました
ちょうど地蔵の祠の前、辺りはすっかり明るく一晩気を失っていた伊藤は
まるで悪い夢が覚めた錯覚に陥っていた、林道の様子は現代の様子で
植林もされている。
「あーー!戻った!!」
夢ではないかとカメラを取り出して再生してみると大きなイワナや
信長と思しきサムライ姿の人物と家来との3ショット写真も有り
安堵した伊藤は持っていた小銭をお地蔵さんの祠に供えて手を合わせた。
「おっと鈴木はどうなったんだろう、とにかく車に戻らなければ」
堰堤を二つ確認して車に着くと鈴木の車だけが無かった
どうやら鈴木も現代に帰る事が出来た様だ、暗くなる前に
車に戻れたのかも知れない、伊藤は携帯が通じる所まで車を
走らせて連絡をすると
「先輩!!大丈夫だったんですね、良かった良かった、
奥さんも心配してるんで連絡して下さい、僕が何が起きたか
話してもみんな半信半疑なんですよ、先輩が言ってくれないと」
「解った、連絡する」
無事な事を知らせてまた車を走らせた
めでたしめでたし、と終わりたいところですが話は続きます、
あの出来事から数年が経ったある日、伊藤は京都に来ていた。
場所は時代劇で有名な撮影所、フライフィッシングを始めて
アマゴやイワナを釣るうちに鈴鹿山系の歴史や産業や伝説に
興味を持ち何時か時代劇の撮影所に行ってみようと思い
タイムスリップのトラウマが癒されたので来てみた。
撮影所とは言っても観光客相手のテーマパークなので人が沢山で
落ち着いて見物が出来ないほどだった、所々に撮影風景や出来事を
上映するテレビが有り映画界の大きなニュースが流れていた。
「織部信一さん、アカデミー主演男優賞受賞おめでとうございます!!」
「日本初の受賞おめでとうございます!!何か一言!」
報道陣から浴びせられる祝福に織部のマネージャーが応える
「有難う御座います、でも、アメリカでは受けましたが日本ではどうでしょうねぇ
織部さんはすごい役者です、凄味が有るんですよねぇ、直感でこの人を抜擢しました
国内上映も決まっているので楽しみにして下さい」
「織部さん!!一言お願いします、日本では無名な織部さんが受賞した理由は??」
「何かやってやろうと言う気持ちなんでしょうねぇ」テレビの奥で大型新人の
アカデミー役者がそう語る
テレビを見ている観光客も「あー、すごいねぇ、日本初だよねぇ」とか
「すごい役者が出て来たんだねぇ」とみんながほめているが伊藤だけは
冷めた目で「どんなに良い役者でも織田信長や坂本龍馬にはかなわんだろう
国そのものの歴史を変えた訳でもないし」と心で呟いた。
昼時に軽く食事を摂っていると前方の人物が強烈な視線を刺していた
伊藤は気付かなかったが視線をそらさず近付く人物にやっと気付いた。
「伊藤さん?」と話しかける人物に気付かないのも無理はない、
帽子を目深にかぶりサングラスを掛けているからだ、伊藤は声の主の
方を向いて「誰ですか?」と首をひねりながら応えると人物は
「私です」とは言うがまだ顔を出さない、怪しげな顔をする伊藤の
手を取ったサングラスの人物は撮影所の控室へと足を運んだ。
「伊藤さん私です!」とやっと控室に入って帽子とサングラスを取った
それでもきょとんとしている伊藤に向かって「その方達何をしておる!」
と声色を変えて言うと「あ!!お!お!」と言いかけた時に謎の人物はその
口を手で塞いだ「脅かしてすみません、ここではちょっと・・」
周りにはスタッフらしき人影もチラホラする。
伊藤はやっと解りかけて来て「いやー、お久しぶりです、まさかここで
出合おうとは思いませんでした、あーーー!」伊藤はさらに大変な事が
解った「えーーー!織部さん??」「やっと気付いてもらえた様で安心しました
私の気持ちは伊藤さんにしか理解出来ないと思います」
「織部信一さん・・まさか織田信長が21世紀にタイムスリップして来たなんて
誰も想像しませんからねぇ」気付かれない様に小さな声で言う。
「7年前に来たんですが場所が良かったんですよ」
織部信一こと織田信長は本能寺で明智光秀の夜襲に逢いやっとの思いで
古井戸に逃げ込んだ時にタイムスリップしそれがちょうど21世紀だった。
場所もそのまま京都でボロボロの着ものがちょうどホームレスの人たちに
違和感なく助けられて逞しく生きる方法を身に付けた。
いきなりタイムスリップで現代に飛び込んできた当初は環境が理解出来ず
ホームレスや現代人の前では記憶喪失として振舞い落ち着いた頃
老人介護施設を通して養子縁組の手続きをして正式の現代人となった。
やがて僅かな小銭を稼ぎながら暇さえあれば図書館に通い書物を漁り
現代の醜い部分も知りホームレスの人たちに恩返しをしようと
思い考え抜いた答えは、「この時代に地位と学歴が無い事を補うには
有名になるしかない」と考えた織部は時代劇ならば地のままで出来ると
思い役者を目指し片道切符と辞書を片手にアメリカへ発った。
アメリカで役者を目指しながら脚本も書き映画製作会社にも売り込んだ
一作が日本贔屓の監督の目にとまった。
「織部さん、日本でもフライフィッシングが出来るんですか?
ストーリーにかなり無理な点は有りますが何かやりがいのある
作品の様な気がします」監督は期待するように言った
「アメリカに比べると日本の川は短くて急流がほとんどですが町から
近いので気楽に遊べるんです、そんな中にも歴史の足跡があるので
この国の人達にも知って欲しいと思ったんです、以前アメリカ映画で
フライフィッシングを取り上げた作品が日本でヒットして
フライフィッシングが流行したんですがこの作品はその逆を考えたんです
フライフィッシングを通して日本の風景や歴史や現代の問題点を紹介
したいんです」目を輝かせながら力説する織部に監督はこう答える
「やってみましょう、日本の観光地以外の良い所も沢山入れていきましょう」
数年後に映画は完成しタイトルも原案通りの「野望の谷」となり
内容を熟知している織部が主役を務めてアカデミー賞を獲得してしまった。
しかし、主人公が戦国時代の武将であるにもかかわらず本人が演じている
とは誰一人気付かない、気付くはずもなく有り得ないのである。
日本上映を間近に控えて帰国していた織部は再会した、
「やっと気付いてもらえた様で安心しました私の気持ちは伊藤さんにしか
理解出来ないと思います」
「織部信一さん・・まさか織田信長さんが21世紀にタイムスリップして
来たなんて誰も想像しませんからねぇ」気付かれない様に小さな声で言う。
「7年前に来たんですが大変でした、右も左も解らず伊藤さんに教えてもらった
事が役に立ちましたがそれでも想像をはるかに超えてましたね」
「そうでしょうねぇ、夜も明るくてうるさくて普通だったらイカレてしまいますよ、
ところで、明智さん、なんであんな事しちゃったんでしょうねぇ」
「あれはねぇ・・・私が見る目を誤ったんですよ、光秀が野心を抱くように
厳しくしたつもりが反感だけを招いたんです、もっと正々堂々と野望を持って
上を目指して欲しかったなぁ、あれではただの謀反にすぎないんだよなぁ」
「ところで今度日本でも上映される映画ってどんなんですか?」
「あ、そろそろ予告編がテレビでも放映されるから見ると良いよ
ビックリするから、だから今ここではちょっとね、一つお願いが
有るんだけど良いかな?」
「良いですよ、出来る事なら何でも協力しますよ」
「あの日の様子の写真と動画まだ有ったら欲しいんだけど、で、
このアドレスまでメールで送って欲しいんだ」
と言ってタブレットの端末マシンを取りだした
「おーー!進んでるーー!さすが織部さんはどの時代でも
突っ走ってますねぇ」
二人はメールアドレスを交換し何時でもコンタクト出来る
状態にした
「今日は逢えて良かった、また何時か逢えるといいですね」
「いやー、ビックリしました、同じ体験をした者同士で
助け合えたら良いですね、映画きっと見に行きます、ではまた」
一月ほど過ぎて「野望の谷」と言う映画が上映開始になり
伊藤は早速見に行って驚いた、織田信長との出会いとその後の
様子を描いた内容だった、しかも最後は21世紀で天下統一
しているのだ、つまり途中まで映画のままだからだ。
「もしかして織部さんいや織田信長はこの時代でもトップに
なるつもりか?これはやばい事になるかも・・・」
そしてついにその方向に走り出してしまった。
テレビから織部の記者会見の様子が流れてくる
「この度、私、織部信一は京都府知事選に立候補します
こんな腐った政治は我慢出来ません」
「織部さん!!これは、この流れは・・・いずれは永田町に??」
「はい、出来る事なら天下統一して良い日本にしたいと考えます」
翌日の新聞のトップはもちろん「野望の谷の実現か??」であった
ワイドショーの時間はほとんどそのニュースで埋まるほどになり
心配する伊藤の携帯に織部からメールが届いた
「写真と動画を送って頂き有難う御座います、もしも私がまた過去に
戻ってしまったりした時は伊藤さんのブログや動画サイトに投稿して
下さるのも一考かと思います」
しかし、これが最初で最後のメールとなる事は数日後解った。
携帯の着メロがけたたましく鳴り「先輩!テレビつけて下さい!」
と鈴木の慌てた声が聞こえて伊藤もスイッチを入れると
アナウンサーが興奮してしゃべっている、
「これはCGなんでしょうか!?出来るならCGであってほしいです」
テレビの映像では一発の銃声の後壁面を人が落下する途中で消えた
テロップには「日本初のアカデミー賞俳優、謎の失踪」と出ている
「あー、こう言う事になってしまったか」
「先輩ビックリしないんですか!織部信一がどうなったか気になりません?」
「多分帰ったんだろうあの時代に、あの人は織田信長さんだったんだよ」
「えー!そうだったんですか?」
「たとえ戦国時代に戻れなくてもまた何処かの時代で突っ走って
いるんだろうなぁ」
呆気に取られる鈴木を余所に伊藤は淡々と答えた。
そして織田信長の遺体は未だに見つかっていない。
完
やっと書き終わりました、読めば読むほど矛盾やら理解出来ない
部分が出てきますがきりがないのでこんな感じで完成とします。
冒頭に書いた通り鈴鹿山系には幾つかの
山越えの街道が有ります、どの街道も谷に沿っていて今でも
アマゴやイワナが釣れます、この物語に登場する谷で釣りをした
事が有り大釣りした事は有りませんが良い谷だったとは
思います、来年辺りいってみようかなと思います、
その時は必ず「野望の谷」と名付けます。
タイムスリップ、映画やドラマで幾度となくテーマになりました、
今現在もドラマで放映されてますが時代が違ってほっとしてます。
ところで誰かタイムスリップを経験した人いませんか??
いませんよねぇやっぱり

前回までのあらすじ
伊藤と鈴木の先輩後輩コンビは鈴鹿山系の
谷を訪れて何時もの様に釣りをしていたが堰堤を越える時に
掴んでいた木が抜けて二人共々堰堤の下に落ちたかに見えたが
落ちたはずの場所には堰堤もなかった、伊藤が薄うすタイムスリップを
感じていたその背後に現れたのは織田信長だった、
未知の物に興味を抱きやすい武将と21世紀の二人の青年を
フライフィッシングが結び寄せた、武将は二人が困らない様に
書状を渡し街道に戻り、師匠と弟子の二人のフライフィッシャーは
残された唯一の楽しみを思う存分楽しんでいると
「ダダーーーン!」と森を引き裂くほどの銃声が轟いた
はたして、その銃弾は誰を狙っていたのか、信長は無事か。
伊藤にはすでに解っていた、それは信長を狙った暗殺者の
銃声だった、暗殺者の火縄銃は二つ玉と言う連発のような物で
その名手をもってしても暗殺は成功しなかった。
「先輩!!今のは?鉄砲?」
「そうだ、今日の日日を聞いてすぐ解ってた、お前に言うと
信長さんに絶対言ってただろう、だから黙ってた、今日の
暗殺は失敗した事になってるから心配するな、でないと
本能寺は無いからな」
とは言いながらやはり心配する気持ちは消えない、しかし
心配と裏腹に爆釣は続き釣りの宴は終わりを迎えた。
上流で掛かる街道の橋は21世紀と変わらない場所に有りほっとして
伊藤が渡り始める、この時代に掛かっているのだから橋は新しいと
思っていたが掛け替え時らしくかなり痛んでいた、続いて鈴木も
渡り始める、数秒後伊藤は背後から伝わって来る揺れを感じた、
「バキッ!」と音がし振り返った直後「あーーーぁぁ!」と
言う声と共に波紋も飛沫も起こらず水面に消えて行った
「鈴木ーーーー!、あ!行っちまった」
しばらく周辺を捜したが見つからなかった、どうやら
またタイムスリップに陥ってしまった様だ、せめて21世紀に
戻る事を伊藤は願うしかなかった。
いくら街道とは言っても山の峠道でありこの時代の夕暮れは
二人の時は冷静で強気で居られる伊藤さえも不安に陥れる。
不意に背後から物音がしたが不安のためか何の音か確かめないうちに
小走りになってしまう、足音の主は獣かはたまた人間か妖怪か
山賊も居るかも知れない、そんな気持ちがついに全速になりそして
一度振り向いて何も居ない事を確かめて前を向いた時、目の前には
井戸が有った、山道を行きかう人たちのための水飲み場にも
なっている井戸で蓋は無く壁にも囲まれていない、
伊藤は井戸が有る事は認識しているが体はもう止まらず真っ暗な
井戸に吸い込まれていった。
暗闇に吸い込まれたはずのタイムスリッパーは林道の横で目を覚ました
ちょうど地蔵の祠の前、辺りはすっかり明るく一晩気を失っていた伊藤は
まるで悪い夢が覚めた錯覚に陥っていた、林道の様子は現代の様子で
植林もされている。
「あーー!戻った!!」
夢ではないかとカメラを取り出して再生してみると大きなイワナや
信長と思しきサムライ姿の人物と家来との3ショット写真も有り
安堵した伊藤は持っていた小銭をお地蔵さんの祠に供えて手を合わせた。
「おっと鈴木はどうなったんだろう、とにかく車に戻らなければ」
堰堤を二つ確認して車に着くと鈴木の車だけが無かった
どうやら鈴木も現代に帰る事が出来た様だ、暗くなる前に
車に戻れたのかも知れない、伊藤は携帯が通じる所まで車を
走らせて連絡をすると
「先輩!!大丈夫だったんですね、良かった良かった、
奥さんも心配してるんで連絡して下さい、僕が何が起きたか
話してもみんな半信半疑なんですよ、先輩が言ってくれないと」
「解った、連絡する」
無事な事を知らせてまた車を走らせた
めでたしめでたし、と終わりたいところですが話は続きます、
あの出来事から数年が経ったある日、伊藤は京都に来ていた。
場所は時代劇で有名な撮影所、フライフィッシングを始めて
アマゴやイワナを釣るうちに鈴鹿山系の歴史や産業や伝説に
興味を持ち何時か時代劇の撮影所に行ってみようと思い
タイムスリップのトラウマが癒されたので来てみた。
撮影所とは言っても観光客相手のテーマパークなので人が沢山で
落ち着いて見物が出来ないほどだった、所々に撮影風景や出来事を
上映するテレビが有り映画界の大きなニュースが流れていた。
「織部信一さん、アカデミー主演男優賞受賞おめでとうございます!!」
「日本初の受賞おめでとうございます!!何か一言!」
報道陣から浴びせられる祝福に織部のマネージャーが応える
「有難う御座います、でも、アメリカでは受けましたが日本ではどうでしょうねぇ
織部さんはすごい役者です、凄味が有るんですよねぇ、直感でこの人を抜擢しました
国内上映も決まっているので楽しみにして下さい」
「織部さん!!一言お願いします、日本では無名な織部さんが受賞した理由は??」
「何かやってやろうと言う気持ちなんでしょうねぇ」テレビの奥で大型新人の
アカデミー役者がそう語る
テレビを見ている観光客も「あー、すごいねぇ、日本初だよねぇ」とか
「すごい役者が出て来たんだねぇ」とみんながほめているが伊藤だけは
冷めた目で「どんなに良い役者でも織田信長や坂本龍馬にはかなわんだろう
国そのものの歴史を変えた訳でもないし」と心で呟いた。
昼時に軽く食事を摂っていると前方の人物が強烈な視線を刺していた
伊藤は気付かなかったが視線をそらさず近付く人物にやっと気付いた。
「伊藤さん?」と話しかける人物に気付かないのも無理はない、
帽子を目深にかぶりサングラスを掛けているからだ、伊藤は声の主の
方を向いて「誰ですか?」と首をひねりながら応えると人物は
「私です」とは言うがまだ顔を出さない、怪しげな顔をする伊藤の
手を取ったサングラスの人物は撮影所の控室へと足を運んだ。
「伊藤さん私です!」とやっと控室に入って帽子とサングラスを取った
それでもきょとんとしている伊藤に向かって「その方達何をしておる!」
と声色を変えて言うと「あ!!お!お!」と言いかけた時に謎の人物はその
口を手で塞いだ「脅かしてすみません、ここではちょっと・・」
周りにはスタッフらしき人影もチラホラする。
伊藤はやっと解りかけて来て「いやー、お久しぶりです、まさかここで
出合おうとは思いませんでした、あーーー!」伊藤はさらに大変な事が
解った「えーーー!織部さん??」「やっと気付いてもらえた様で安心しました
私の気持ちは伊藤さんにしか理解出来ないと思います」
「織部信一さん・・まさか織田信長が21世紀にタイムスリップして来たなんて
誰も想像しませんからねぇ」気付かれない様に小さな声で言う。
「7年前に来たんですが場所が良かったんですよ」
織部信一こと織田信長は本能寺で明智光秀の夜襲に逢いやっとの思いで
古井戸に逃げ込んだ時にタイムスリップしそれがちょうど21世紀だった。
場所もそのまま京都でボロボロの着ものがちょうどホームレスの人たちに
違和感なく助けられて逞しく生きる方法を身に付けた。
いきなりタイムスリップで現代に飛び込んできた当初は環境が理解出来ず
ホームレスや現代人の前では記憶喪失として振舞い落ち着いた頃
老人介護施設を通して養子縁組の手続きをして正式の現代人となった。
やがて僅かな小銭を稼ぎながら暇さえあれば図書館に通い書物を漁り
現代の醜い部分も知りホームレスの人たちに恩返しをしようと
思い考え抜いた答えは、「この時代に地位と学歴が無い事を補うには
有名になるしかない」と考えた織部は時代劇ならば地のままで出来ると
思い役者を目指し片道切符と辞書を片手にアメリカへ発った。
アメリカで役者を目指しながら脚本も書き映画製作会社にも売り込んだ
一作が日本贔屓の監督の目にとまった。
「織部さん、日本でもフライフィッシングが出来るんですか?
ストーリーにかなり無理な点は有りますが何かやりがいのある
作品の様な気がします」監督は期待するように言った
「アメリカに比べると日本の川は短くて急流がほとんどですが町から
近いので気楽に遊べるんです、そんな中にも歴史の足跡があるので
この国の人達にも知って欲しいと思ったんです、以前アメリカ映画で
フライフィッシングを取り上げた作品が日本でヒットして
フライフィッシングが流行したんですがこの作品はその逆を考えたんです
フライフィッシングを通して日本の風景や歴史や現代の問題点を紹介
したいんです」目を輝かせながら力説する織部に監督はこう答える
「やってみましょう、日本の観光地以外の良い所も沢山入れていきましょう」
数年後に映画は完成しタイトルも原案通りの「野望の谷」となり
内容を熟知している織部が主役を務めてアカデミー賞を獲得してしまった。
しかし、主人公が戦国時代の武将であるにもかかわらず本人が演じている
とは誰一人気付かない、気付くはずもなく有り得ないのである。
日本上映を間近に控えて帰国していた織部は再会した、
「やっと気付いてもらえた様で安心しました私の気持ちは伊藤さんにしか
理解出来ないと思います」
「織部信一さん・・まさか織田信長さんが21世紀にタイムスリップして
来たなんて誰も想像しませんからねぇ」気付かれない様に小さな声で言う。
「7年前に来たんですが大変でした、右も左も解らず伊藤さんに教えてもらった
事が役に立ちましたがそれでも想像をはるかに超えてましたね」
「そうでしょうねぇ、夜も明るくてうるさくて普通だったらイカレてしまいますよ、
ところで、明智さん、なんであんな事しちゃったんでしょうねぇ」
「あれはねぇ・・・私が見る目を誤ったんですよ、光秀が野心を抱くように
厳しくしたつもりが反感だけを招いたんです、もっと正々堂々と野望を持って
上を目指して欲しかったなぁ、あれではただの謀反にすぎないんだよなぁ」
「ところで今度日本でも上映される映画ってどんなんですか?」
「あ、そろそろ予告編がテレビでも放映されるから見ると良いよ
ビックリするから、だから今ここではちょっとね、一つお願いが
有るんだけど良いかな?」
「良いですよ、出来る事なら何でも協力しますよ」
「あの日の様子の写真と動画まだ有ったら欲しいんだけど、で、
このアドレスまでメールで送って欲しいんだ」
と言ってタブレットの端末マシンを取りだした
「おーー!進んでるーー!さすが織部さんはどの時代でも
突っ走ってますねぇ」
二人はメールアドレスを交換し何時でもコンタクト出来る
状態にした
「今日は逢えて良かった、また何時か逢えるといいですね」
「いやー、ビックリしました、同じ体験をした者同士で
助け合えたら良いですね、映画きっと見に行きます、ではまた」
一月ほど過ぎて「野望の谷」と言う映画が上映開始になり
伊藤は早速見に行って驚いた、織田信長との出会いとその後の
様子を描いた内容だった、しかも最後は21世紀で天下統一
しているのだ、つまり途中まで映画のままだからだ。
「もしかして織部さんいや織田信長はこの時代でもトップに
なるつもりか?これはやばい事になるかも・・・」
そしてついにその方向に走り出してしまった。
テレビから織部の記者会見の様子が流れてくる
「この度、私、織部信一は京都府知事選に立候補します
こんな腐った政治は我慢出来ません」
「織部さん!!これは、この流れは・・・いずれは永田町に??」
「はい、出来る事なら天下統一して良い日本にしたいと考えます」
翌日の新聞のトップはもちろん「野望の谷の実現か??」であった
ワイドショーの時間はほとんどそのニュースで埋まるほどになり
心配する伊藤の携帯に織部からメールが届いた
「写真と動画を送って頂き有難う御座います、もしも私がまた過去に
戻ってしまったりした時は伊藤さんのブログや動画サイトに投稿して
下さるのも一考かと思います」
しかし、これが最初で最後のメールとなる事は数日後解った。
携帯の着メロがけたたましく鳴り「先輩!テレビつけて下さい!」
と鈴木の慌てた声が聞こえて伊藤もスイッチを入れると
アナウンサーが興奮してしゃべっている、
「これはCGなんでしょうか!?出来るならCGであってほしいです」
テレビの映像では一発の銃声の後壁面を人が落下する途中で消えた
テロップには「日本初のアカデミー賞俳優、謎の失踪」と出ている
「あー、こう言う事になってしまったか」
「先輩ビックリしないんですか!織部信一がどうなったか気になりません?」
「多分帰ったんだろうあの時代に、あの人は織田信長さんだったんだよ」
「えー!そうだったんですか?」
「たとえ戦国時代に戻れなくてもまた何処かの時代で突っ走って
いるんだろうなぁ」
呆気に取られる鈴木を余所に伊藤は淡々と答えた。
そして織田信長の遺体は未だに見つかっていない。
完
やっと書き終わりました、読めば読むほど矛盾やら理解出来ない
部分が出てきますがきりがないのでこんな感じで完成とします。
冒頭に書いた通り鈴鹿山系には幾つかの
山越えの街道が有ります、どの街道も谷に沿っていて今でも
アマゴやイワナが釣れます、この物語に登場する谷で釣りをした
事が有り大釣りした事は有りませんが良い谷だったとは
思います、来年辺りいってみようかなと思います、
その時は必ず「野望の谷」と名付けます。
タイムスリップ、映画やドラマで幾度となくテーマになりました、
今現在もドラマで放映されてますが時代が違ってほっとしてます。
ところで誰かタイムスリップを経験した人いませんか??
いませんよねぇやっぱり

2011年06月18日
「野望の谷」 その2 接点
「野望の谷」 その2 接点
前回のあらすじ
伊藤と鈴木は何時もの様に釣りをしていたが堰堤を
越える時に掴んだ木が根っこごと抜けて堕ちてしまう、
しかし不思議な事に怪我はまったく無かった、周囲の
状況が違う事に伊藤は気が付いた、鈴木はお構いなしに
釣りを続けるが伊藤はタイムスリップをした事を
確信しどの時代にスリップしたのかを確定しようと
していた所に二人の人物が近付いて来た、
そして年号と日付を尋ねた。
「え?何時代??」
ビックリする鈴木の頭を押さえて「織田信長さんですか?」
「なぜ解るのだ?」と上司らしき人物が言った
「そりゃもう、戦国一の有名人ですから、って事はそちらの方は
森欄丸さん?」何処まで脳天気なんだ・・・
「あ!失礼しました、私は伊藤時朗、こいつは鈴木幾三、どうやら
私たちは時間の壁を突き破ってこの時代に迷い込んでしまったようです」
「何の事かさっぱり解らんが西洋人を初めて見た時よりも奇怪な
着物じゃのう、わしでなかったらどうなっておったか、はっはっは、
で、時の壁を破ったとは一体なんの事か?」
「解ってもらえるとは思いませんが、今この時代は16世紀ですが
私たちは21世紀に生きていました、つい先ほど迷い込んだばかりで
こう言う事をタイムスリップと言います」
「ほほー、タイムスリップとな?確かフロイスも16世紀と言っておった、
と言う事は21世紀とは未来の事か?」
「そうです、21世紀では信長さんを知らない人は居ません、有名人なんです」
鈴木はそう言いながらメモ帳とペンを手に持ってサインをしてもらおうとすると
「鈴木、何考えてんだ、そんな場合か?バーカ!」
「だってさぁ、下手なタレントなんて目じゃないっすよサインもらいましょうよぉ」
「戻れると思ってんのか?、あーあおめでたいやつだよおまえは」
「欄丸、しばらく休むぞ」二人に興味を持った信長は欄丸にそう言った
「ハイ!仰せの通りに」
「ところでその方達、どうやら釣りらしき事をしている様じゃが?
竿は短いし糸は太いしそんな物で釣れるのか?、西洋人も色々面白い
物を持って来たがその様な釣り道具は無かったぞ」
「フライフィッシングって言うんですよ、楽しいですよぉぉ、あ!そうか
まだこの時代には西洋でも無かったんですね、先輩」
「百年くらい早いかなぁ、鈴木、一匹釣って見せてやれ、まぁ見ていて下さい」
伊藤は自信たっぷりに言った、この時代なら魚は豊富に居るはずだし
釣り人もほとんど居ない事が明白だった。
鈴木はいとも簡単に一匹の良型イワナを釣り信長に見せた
「これがイワナです」と言いながら伊藤もじっくり眺めると
ニッコウイワナではない事は理解出来たがヤマトイワナかと
言うとそれも言いきれない容姿で琵琶湖水系特有と見えた。
「簡単に釣れるもんじゃなぁ」
釣ったばかりのイワナを鈴木が川にリリースしているのを
みた信長はこう言った
「これ、釣った魚を逃がすのか?魚は釣ったら食うのが当然じゃろう」
「確かに21世紀でも多くの釣り人は釣った魚を食べますが
フライフィッシングは遊びの釣りなので川に戻すんです
特に川の上流の魚は21世紀ではどんどん減っていくんです、
あ!そうだ、今なら4匹ばかり焼いても大丈夫だなぁ、塩焼きに
して食べませんか??」
「それは良いのぉ、しかし塩が無かろう」
「有るんですよねぇ、ヒル除けの塩が」と鈴木が塩を出して見せると
伊藤も出して見せた
「そうか、ヒル除けの塩が有ったかそれは気がつかんかった、わしらが
火の準備をするから美味そうな魚を釣ってくれ」
「解りました」「了解!」
すぐ上流の大きな淵で二人は25cmほどのイワナを二匹ずつ何の
苦労もなく釣り上げて戻って来た。
「先輩、信長さんにフライフィッシングを教えるってどうです??」
と小声で言う「おまえ何考えてんだ・・・でも信長さんなら出来そうだなぁ」
二人はどえらい事をたくらんでいる様にヒソヒソ話をしていると
「準備は出来ているぞ後は焼くだけだ」
4匹のイワナは櫛に刺され火にかけられた
「信長さん、魚が焼けるまでフライフィッシングやってみませんか?」
これはとんでもない事を言ってしまったと思ったが日本で最初の
「西洋カブレ」である織田信長ならば理解出来るだろうと伊藤も鈴木も
確信しているし楽しんでもらいたいと思う二人だった。
三人は先ほどの淵へ行きキャスティング理論から始めた、
「重くもないのに何故飛んでいくんじゃ?」
「ウナギや蛇を想像して下さい、体をクネクネと動かしながら前進
します、体の筋肉を頭から尻尾に向けて動かして行くんです、
で、最後に体を一直線にしてフライを狙った場所に届けるんです、
まぁ、理論より実際ですね、壁を木槌で叩く様に腕を振ってみて下さい」
「さっぱり解らんがとにかく真似てみるか」と言って鈴木のロッドを
手に持った。
「前!後ろ!前!後ろ、糸が伸びきったら竿を後ろに引いて下さい
手首は返さず竿は水平になってはいけません、はい前、後ろ」
伊藤はキャスティングを教えながらカメラで動画を撮影していた
「おー!なるほどなるほど伸びるまで待つんじゃな」
「あー良い筋してる、こりゃまいった、さすが師匠、教え方も上手いなぁ」
「さすが信長さん理解が速い、ループが綺麗だ、前の弟子とは全然違うなぁ、
それじゃぁそのまま流れに落として下さい、魚が居そうな場所の3尺くらい
前に落として下さい」
「解った、魚の居そうな・・・居た、あそこだな」
信長がキャストしたフライは思い通りの場所に落ちて流れる
淵の流れは緩くドラッグも掛からず流れていき大きな岩の横を
通過しようとした時大きな魚が出た、信長はフライを
見失っていて竿を立てるのが遅れたがそれを見過ごしていたかの様に、
「ハイ!竿立てて!」との伊藤の大きな声に驚いて竿を立てた信長の
腕は満月にしなった竿を持っていた。
「竿を横に寝かせて下さい、糸を手繰って下さい、少し緩めて!」
最良の弟子が師匠に従う事数分淵の主が姿を現した。
「おーー!でかい!ビギナーズラックなんてもんじゃない」
「すごいですよ、参りました・・尺二寸(36cm)」
「21世紀にはここにこんなイワナ居ないよねぇ、おっと
写真撮らなきゃ」写真を撮っている鈴木をみながらこう言った
「おー!なかなか面白い釣りじゃのう、鈴木とやら何をしておる?」
「この釣りをしている人たちはほとんど逃がすんで写真に収めておくんです
そうすれば後で何度でも見られるしブログにアップして世界に発信出来るんです」
「良く解らんがその小さな箱の中に魚を入れるのか?入らんじゃろう?」
「実物が中に入る訳じゃないけど・・・写真に・・・」
「写真と言う物が出来るのはまだまだ先の事なんですけど、まぁ
解りやすくすると日差しが強い時に日焼けしますよね」
「確かに日焼けするのぅ、じゃがそんな一瞬には日焼けせんぞ」
「それを一瞬でするのが科学の力なんです、で、この淵の主を
どうしましょう信長さん」
「主を食うのはなにか後ろめたいのう、逃がしてやってくれ」
「よ!さすが信長さん大物だねぇ」
難を逃れて淵へ戻る大イワナを見送った三人は戻って来た。
「おー、焼けたようじゃな、イワナを肴に21世紀の話でも聞かせてくれ」
イワナの腹にかぶり付く信長の目は輝いていた、伊藤はこの後に起こる
一つの事件を知っていたので出来るだけ信長の生涯に関わる事は言わない
様に心がけていた、そんな気持ちもまるで無視をする様に鈴木は話始める、
「信長さんは21世紀では一番人気の戦国武将なんですよ・・」
「と言う事はわしの最後も分かっておると言う事じゃな、何時じゃ?」
「それは断じて言えません、過去にタイムスリップした者達の暗黙の
掟なんです、歴史を変えてはいけないって事です」
「はっはっは、暗殺じゃろう、世の中を良くしようとする者は必ず
暗殺されるもんじゃ、いやそれでなくてはならん、反対勢力は必ず居るもんじゃ、
わしはこの谷沿いの峠道を通る時は何時も野望に満ちておる、
この先の伊勢の国は良い所と聞いておるが21世紀の伊勢の国はどんな様子じゃ?」
「尾張、美濃、伊勢と三つの国が一体となって日本のいや世界でも有数の物作りの
拠点になってます」
そう言いながら伊藤はカメラを手にとり先ほど釣ったイワナや乗り物、町の風景、
山の風景、日本各地の風景を見せると西洋文化を素直に受け止めた信長も
さすがに驚いている、
「なんじゃこの大きな鳥や動く箱は、何で出来ておるんじゃ?」
「20世紀からは鉄の箱が馬無しで走り金属製の鳥が空を飛び燃える
液体が世界を動かしているんです、でもそれを管理する者と国を
司る幕府(政府)が何とも歯がゆいんです、技術と文化と民族性は
世界に認められているのに幕府だけが世界の鼻つまみ状態で庶民が
苦労するばかりなんです、庶民はそれが解っているんですがお役人が
解ってないんです」
「そうか、大変な時期なんじゃなぁ、庶民をないがしろにする幕府は長く続かん、
その方達では何とかならんのか?なり上がりの秀吉は良い仕事をしておるぞ」
「そうですよねぇ、秀吉さんは農民だったんですよねぇ言ってみれば
僕らと一緒の庶民だったんですよねぇ、でも21世紀では学歴が・・・」
「もっと野望を持て!野望がなければ何も始まらんぞ!」
「って言われても今ここに居るんじゃ手も足も出ましぇーん」
信長に叱咤激励されて改めてタイムスリップした事の重大さを思い知った
二人だった。
「おー、すまんすまんすっかり忘れておった、それどころではなかったのう、
そうじゃ、このままこの時代に残されては困ろう、二人に書状を書こう、
谷を下った集落に行きつけの宿が有る、しばらく世話になるが良い、
その後京なり安土なり町へ出て働くが良い」
「助かります、町へ出たら出来るだけこの書状を見せなくても済む様にしたいです、
あ!記念に写真を撮りましょう」
「あ!サインだ!ヤフオクか鑑定か・・・帰ればの話・・・」
「あーーあ相変わらずだなぁお前は」
伊藤と鈴木はそれぞれに3ショットで写真を撮った
「その脳天気ぶりも何かの役にたつかも知れんぞ、元気でなぁ、
さて、欄丸そろそろ行くか」
「はい、承知しました、その方達、達者でな」
「ではお元気で、戦国ヒーローと戦国アイドルさん!」
二人の戦国武士は笑いながら街道に戻って行った。
「信長さんじゃなかったら今ごろもう打ち首にされてるぞ
脳天気もほどほどにしとけよ」
伊藤は半分怒って言ったがこの事態では変に落ち着くよりも
開き直った方が得策だろうと感じていた。
「信長さんのおかげでこの時代でも何とかなりそうですね」
「バカだなぁ、本能寺の変が過ぎたらこんなのは紙切れなんだぞ
それまでに何とかしなきゃ、まぁ今日だけは存分に釣りを楽しむか」
「そうですよこんなチャンス絶対に無いんですから」
鈴木の言う通りである、この谷でこれほど大きな天然イワナを釣るのは
21世紀で可能性はまず無い、その後二人は腕が痛くなるほど、そして飽きるほど
イワナを釣り続けた。
二人での釣りを再開して少し時間が過ぎた頃森の中から
「ダーン、ダーン!」と銃声の様な音が山中に轟いた。
つづく
はい!登場しました戦国の大武将織田信長です
鈴鹿山系には他にも豊臣秀吉が大勢の軍を率いて越えたルートや
薩摩の島津軍が逃げ帰った山越え道など登山ルートとしても
人気が有ります。
さて最終章は?信長ははたして無事なのか?お楽しみに
前回のあらすじ
伊藤と鈴木は何時もの様に釣りをしていたが堰堤を
越える時に掴んだ木が根っこごと抜けて堕ちてしまう、
しかし不思議な事に怪我はまったく無かった、周囲の
状況が違う事に伊藤は気が付いた、鈴木はお構いなしに
釣りを続けるが伊藤はタイムスリップをした事を
確信しどの時代にスリップしたのかを確定しようと
していた所に二人の人物が近付いて来た、
そして年号と日付を尋ねた。
「え?何時代??」
ビックリする鈴木の頭を押さえて「織田信長さんですか?」
「なぜ解るのだ?」と上司らしき人物が言った
「そりゃもう、戦国一の有名人ですから、って事はそちらの方は
森欄丸さん?」何処まで脳天気なんだ・・・
「あ!失礼しました、私は伊藤時朗、こいつは鈴木幾三、どうやら
私たちは時間の壁を突き破ってこの時代に迷い込んでしまったようです」
「何の事かさっぱり解らんが西洋人を初めて見た時よりも奇怪な
着物じゃのう、わしでなかったらどうなっておったか、はっはっは、
で、時の壁を破ったとは一体なんの事か?」
「解ってもらえるとは思いませんが、今この時代は16世紀ですが
私たちは21世紀に生きていました、つい先ほど迷い込んだばかりで
こう言う事をタイムスリップと言います」
「ほほー、タイムスリップとな?確かフロイスも16世紀と言っておった、
と言う事は21世紀とは未来の事か?」
「そうです、21世紀では信長さんを知らない人は居ません、有名人なんです」
鈴木はそう言いながらメモ帳とペンを手に持ってサインをしてもらおうとすると
「鈴木、何考えてんだ、そんな場合か?バーカ!」
「だってさぁ、下手なタレントなんて目じゃないっすよサインもらいましょうよぉ」
「戻れると思ってんのか?、あーあおめでたいやつだよおまえは」
「欄丸、しばらく休むぞ」二人に興味を持った信長は欄丸にそう言った
「ハイ!仰せの通りに」
「ところでその方達、どうやら釣りらしき事をしている様じゃが?
竿は短いし糸は太いしそんな物で釣れるのか?、西洋人も色々面白い
物を持って来たがその様な釣り道具は無かったぞ」
「フライフィッシングって言うんですよ、楽しいですよぉぉ、あ!そうか
まだこの時代には西洋でも無かったんですね、先輩」
「百年くらい早いかなぁ、鈴木、一匹釣って見せてやれ、まぁ見ていて下さい」
伊藤は自信たっぷりに言った、この時代なら魚は豊富に居るはずだし
釣り人もほとんど居ない事が明白だった。
鈴木はいとも簡単に一匹の良型イワナを釣り信長に見せた
「これがイワナです」と言いながら伊藤もじっくり眺めると
ニッコウイワナではない事は理解出来たがヤマトイワナかと
言うとそれも言いきれない容姿で琵琶湖水系特有と見えた。
「簡単に釣れるもんじゃなぁ」
釣ったばかりのイワナを鈴木が川にリリースしているのを
みた信長はこう言った
「これ、釣った魚を逃がすのか?魚は釣ったら食うのが当然じゃろう」
「確かに21世紀でも多くの釣り人は釣った魚を食べますが
フライフィッシングは遊びの釣りなので川に戻すんです
特に川の上流の魚は21世紀ではどんどん減っていくんです、
あ!そうだ、今なら4匹ばかり焼いても大丈夫だなぁ、塩焼きに
して食べませんか??」
「それは良いのぉ、しかし塩が無かろう」
「有るんですよねぇ、ヒル除けの塩が」と鈴木が塩を出して見せると
伊藤も出して見せた
「そうか、ヒル除けの塩が有ったかそれは気がつかんかった、わしらが
火の準備をするから美味そうな魚を釣ってくれ」
「解りました」「了解!」
すぐ上流の大きな淵で二人は25cmほどのイワナを二匹ずつ何の
苦労もなく釣り上げて戻って来た。
「先輩、信長さんにフライフィッシングを教えるってどうです??」
と小声で言う「おまえ何考えてんだ・・・でも信長さんなら出来そうだなぁ」
二人はどえらい事をたくらんでいる様にヒソヒソ話をしていると
「準備は出来ているぞ後は焼くだけだ」
4匹のイワナは櫛に刺され火にかけられた
「信長さん、魚が焼けるまでフライフィッシングやってみませんか?」
これはとんでもない事を言ってしまったと思ったが日本で最初の
「西洋カブレ」である織田信長ならば理解出来るだろうと伊藤も鈴木も
確信しているし楽しんでもらいたいと思う二人だった。
三人は先ほどの淵へ行きキャスティング理論から始めた、
「重くもないのに何故飛んでいくんじゃ?」
「ウナギや蛇を想像して下さい、体をクネクネと動かしながら前進
します、体の筋肉を頭から尻尾に向けて動かして行くんです、
で、最後に体を一直線にしてフライを狙った場所に届けるんです、
まぁ、理論より実際ですね、壁を木槌で叩く様に腕を振ってみて下さい」
「さっぱり解らんがとにかく真似てみるか」と言って鈴木のロッドを
手に持った。
「前!後ろ!前!後ろ、糸が伸びきったら竿を後ろに引いて下さい
手首は返さず竿は水平になってはいけません、はい前、後ろ」
伊藤はキャスティングを教えながらカメラで動画を撮影していた
「おー!なるほどなるほど伸びるまで待つんじゃな」
「あー良い筋してる、こりゃまいった、さすが師匠、教え方も上手いなぁ」
「さすが信長さん理解が速い、ループが綺麗だ、前の弟子とは全然違うなぁ、
それじゃぁそのまま流れに落として下さい、魚が居そうな場所の3尺くらい
前に落として下さい」
「解った、魚の居そうな・・・居た、あそこだな」
信長がキャストしたフライは思い通りの場所に落ちて流れる
淵の流れは緩くドラッグも掛からず流れていき大きな岩の横を
通過しようとした時大きな魚が出た、信長はフライを
見失っていて竿を立てるのが遅れたがそれを見過ごしていたかの様に、
「ハイ!竿立てて!」との伊藤の大きな声に驚いて竿を立てた信長の
腕は満月にしなった竿を持っていた。
「竿を横に寝かせて下さい、糸を手繰って下さい、少し緩めて!」
最良の弟子が師匠に従う事数分淵の主が姿を現した。
「おーー!でかい!ビギナーズラックなんてもんじゃない」
「すごいですよ、参りました・・尺二寸(36cm)」
「21世紀にはここにこんなイワナ居ないよねぇ、おっと
写真撮らなきゃ」写真を撮っている鈴木をみながらこう言った
「おー!なかなか面白い釣りじゃのう、鈴木とやら何をしておる?」
「この釣りをしている人たちはほとんど逃がすんで写真に収めておくんです
そうすれば後で何度でも見られるしブログにアップして世界に発信出来るんです」
「良く解らんがその小さな箱の中に魚を入れるのか?入らんじゃろう?」
「実物が中に入る訳じゃないけど・・・写真に・・・」
「写真と言う物が出来るのはまだまだ先の事なんですけど、まぁ
解りやすくすると日差しが強い時に日焼けしますよね」
「確かに日焼けするのぅ、じゃがそんな一瞬には日焼けせんぞ」
「それを一瞬でするのが科学の力なんです、で、この淵の主を
どうしましょう信長さん」
「主を食うのはなにか後ろめたいのう、逃がしてやってくれ」
「よ!さすが信長さん大物だねぇ」
難を逃れて淵へ戻る大イワナを見送った三人は戻って来た。
「おー、焼けたようじゃな、イワナを肴に21世紀の話でも聞かせてくれ」
イワナの腹にかぶり付く信長の目は輝いていた、伊藤はこの後に起こる
一つの事件を知っていたので出来るだけ信長の生涯に関わる事は言わない
様に心がけていた、そんな気持ちもまるで無視をする様に鈴木は話始める、
「信長さんは21世紀では一番人気の戦国武将なんですよ・・」
「と言う事はわしの最後も分かっておると言う事じゃな、何時じゃ?」
「それは断じて言えません、過去にタイムスリップした者達の暗黙の
掟なんです、歴史を変えてはいけないって事です」
「はっはっは、暗殺じゃろう、世の中を良くしようとする者は必ず
暗殺されるもんじゃ、いやそれでなくてはならん、反対勢力は必ず居るもんじゃ、
わしはこの谷沿いの峠道を通る時は何時も野望に満ちておる、
この先の伊勢の国は良い所と聞いておるが21世紀の伊勢の国はどんな様子じゃ?」
「尾張、美濃、伊勢と三つの国が一体となって日本のいや世界でも有数の物作りの
拠点になってます」
そう言いながら伊藤はカメラを手にとり先ほど釣ったイワナや乗り物、町の風景、
山の風景、日本各地の風景を見せると西洋文化を素直に受け止めた信長も
さすがに驚いている、
「なんじゃこの大きな鳥や動く箱は、何で出来ておるんじゃ?」
「20世紀からは鉄の箱が馬無しで走り金属製の鳥が空を飛び燃える
液体が世界を動かしているんです、でもそれを管理する者と国を
司る幕府(政府)が何とも歯がゆいんです、技術と文化と民族性は
世界に認められているのに幕府だけが世界の鼻つまみ状態で庶民が
苦労するばかりなんです、庶民はそれが解っているんですがお役人が
解ってないんです」
「そうか、大変な時期なんじゃなぁ、庶民をないがしろにする幕府は長く続かん、
その方達では何とかならんのか?なり上がりの秀吉は良い仕事をしておるぞ」
「そうですよねぇ、秀吉さんは農民だったんですよねぇ言ってみれば
僕らと一緒の庶民だったんですよねぇ、でも21世紀では学歴が・・・」
「もっと野望を持て!野望がなければ何も始まらんぞ!」
「って言われても今ここに居るんじゃ手も足も出ましぇーん」
信長に叱咤激励されて改めてタイムスリップした事の重大さを思い知った
二人だった。
「おー、すまんすまんすっかり忘れておった、それどころではなかったのう、
そうじゃ、このままこの時代に残されては困ろう、二人に書状を書こう、
谷を下った集落に行きつけの宿が有る、しばらく世話になるが良い、
その後京なり安土なり町へ出て働くが良い」
「助かります、町へ出たら出来るだけこの書状を見せなくても済む様にしたいです、
あ!記念に写真を撮りましょう」
「あ!サインだ!ヤフオクか鑑定か・・・帰ればの話・・・」
「あーーあ相変わらずだなぁお前は」
伊藤と鈴木はそれぞれに3ショットで写真を撮った
「その脳天気ぶりも何かの役にたつかも知れんぞ、元気でなぁ、
さて、欄丸そろそろ行くか」
「はい、承知しました、その方達、達者でな」
「ではお元気で、戦国ヒーローと戦国アイドルさん!」
二人の戦国武士は笑いながら街道に戻って行った。
「信長さんじゃなかったら今ごろもう打ち首にされてるぞ
脳天気もほどほどにしとけよ」
伊藤は半分怒って言ったがこの事態では変に落ち着くよりも
開き直った方が得策だろうと感じていた。
「信長さんのおかげでこの時代でも何とかなりそうですね」
「バカだなぁ、本能寺の変が過ぎたらこんなのは紙切れなんだぞ
それまでに何とかしなきゃ、まぁ今日だけは存分に釣りを楽しむか」
「そうですよこんなチャンス絶対に無いんですから」
鈴木の言う通りである、この谷でこれほど大きな天然イワナを釣るのは
21世紀で可能性はまず無い、その後二人は腕が痛くなるほど、そして飽きるほど
イワナを釣り続けた。
二人での釣りを再開して少し時間が過ぎた頃森の中から
「ダーン、ダーン!」と銃声の様な音が山中に轟いた。
つづく
はい!登場しました戦国の大武将織田信長です
鈴鹿山系には他にも豊臣秀吉が大勢の軍を率いて越えたルートや
薩摩の島津軍が逃げ帰った山越え道など登山ルートとしても
人気が有ります。
さて最終章は?信長ははたして無事なのか?お楽しみに

2011年06月14日
「野望の谷」 その1 出合い
「野望の谷」 その1 出合い
鈴鹿山系には昔から北と南の端に大きな街道が有ったが
その間にも小規模ながら数本の街道が有り多くの人々が
利用していた、戦国時代には有名な武将達も良く利用していた、
その中の一つの街道に沿った谷で二人の青年に起きた出来事の
お話です。
「先輩!!イワナ居ます??」
「居ないことは無いが少ないだろうなぁ」
ご存知伊藤(時朗)と鈴木(幾三)の先輩後輩コンビだ、
さて今日はどんなドタバタが展開されるのか?
「琵琶湖にそそぐ川にはビワマスが居るって聞きましたけど・・・
釣れないかなぁ・・・」
「そりゃ昔の話だ、今じゃ湖北か湖西に少し上るだけだし
たとえ上ったとしても秋だ、この時期は指のサイズ」
そう言って人差し指を立てて大きさを表した。
「ビワマス」とは琵琶湖特有の鱒で琵琶湖を海に見立てた
「サツキマス」と言えば解りやすい、ただしビワマスは
梅雨時に湖に下り秋に川に上るので春に川を泳ぐビワマスは
とても小さいのである。
この谷は湖東では一二を争う大河の一つの支流で上流には
イワナが生息しているが放流されて自然繁殖した遊泳力の
強いアマゴはどんどんテリトリーを広げている、ところが
純粋な在来アマゴはまず居ない、ダムや堰堤が出来ると共に
降湖率の高いこの川のアマゴ(ビワマスの稚魚)は居なくなったと
されている。
川や魚の話は文中おいおいと入れるとして二人の釣りを見てみよう、
「先輩、今日はどんなフライでいきます??、EHC?ソラックスダン?」
「うーーん、解らん、まだ虫も飛んでないからソラックスダンかな?」
「はい、了ーー解!何時ものイエローですね」
二人は難なく20cmオーバーのアマゴを釣り上げ一つ目の堰堤の
下に着くと「おっとっと、ちょっと待て」無造作に淵に近づきそうな
鈴木を制止しながら「大きいのが居る」と続ける、
「何処何処?あー、居た居た」
「まあ落ち着けお前がハイテンションのままで釣るとろくな事はねぇ」
まずは同じフライを結び直してキャストする、良型アマゴの1メートル
前方にフライが着水し緩い流れに乗ったフライが魚の30cmほど上流に
差しかかるとスーッと寄って来た魚は何かを思い出したかの様に
元居た場所に戻ってしまった、魚の居場所を通過したフライは
静かにピックアップされて鈴木の手に戻った。
「あーあ戻っちゃった、ティペット太いかなぁ・・」
「いや、フライだな、サイズかパターンか、んーーん?・・・」
そう呟きながら伊藤はCDCダンやコンパラダンなどのハックルの無い
フライばかりのボックスから一つのフライを摘まんで
「これで行け」と渡したのはマラードダックのクイルを丸めて
巻いただけの「クランパーノーハックル」だった
「あれ!ノーハックルダンじゃないんですか?」
「まぁ俺の思い付きだ、ウイングだけにフロータント付けて
ボディーを水に浸して投げてみろ」
「なるほどなるほど、沈みかけ狙いですね」
鈴木が投げたフライは先ほどと同じ場所に落ちて同じ様に
流れて行く、多くの釣り人を落胆させた魚も美味しそうに
見えたのか静かに寄って来て一瞬ためらった後吸い込む様に
フライを加えた、「良し!!」「やったー!!」
ロッドは満月に曲がりラインがビュンビュンと音を立てて
震えると魚は上流に走りだし手繰る出すを二度ほど繰り返した
直後ラインのテンションが消えた。
「あーーーー!」
「ザンネーーーーン!!惜しかったね、ロッド立て過ぎかな?」
大物を逃した後二人はしっかり7寸サイズを釣ったがばらした事の
印象の方が数倍大きかったのは言うまでもなかろう。
しかし、それ以上の出来事が二人に降りかかろうとしていた。
「先輩、この堰堤どう巻きます??」そう言いながら鈴木は
周囲を見回している、「うーーん、林道まで戻るのも良いけど」
と言いながら指を差したのは淵の浅い方の横の崖、「あそこを巻くぞ!」
まず伊藤が先に登り始めて後少しと言う所で細い木を掴んで
少し躊躇している鈴木に手を差し伸べて「掴め!大丈夫だ」
例え落ちたとしても水深は浅く問題ない、
「ちゃんと持ってて下さいよ!えい!」と伊藤の手を掴んで二人分の
体重が細い木に掛かった時「ザクッ」と言う音と共に二人は落下
し始めた、その時周りは一瞬にして暗くなり周りの景色を消し
時計の針は目にも止まらぬ速さで回っていた事を二人は知らない。
「先輩!大丈夫ですか?」「おー、大丈夫だ、お前こそ・・・」
二人はロッドやリールを真っ先に確認してから怪我は無いかと
確かめたがまったく無傷だった。
「結構派手に落ちたんだけどなぁ、まぁ良いか、あれ?堰堤が・・・」
「ん??堰堤が消えたなあ、山は確かに鈴鹿の山なんだけど・・・」
「釣りましょ釣りましょ」
鈴木はポジティブ思考で対処しているが伊藤には他の違和感にも気づき
タイムスリップを確信したがそう思っているうちに鈴木が魚を釣った。
「先輩、さっきから小さいのが反応しますよ、おっと釣れた、小いせー」
「どれどれ、おや?これひょっとするとビワマスの稚魚かも・・・」
ところで普通のアマゴとビワマスの稚魚の見た目の違いは
まずサツキマスの様に背びれと尾びれの縁がグレー色で目が少し大きめなので
パッチリしている事、それくらいらしい。
伊藤は鈴木にイワナのポイントを重点的に狙う様に支持すると
「居ます!岩の横に大きな魚の影が有ります」
「そうか、大きなイワナと・・小さなビワマスと・・堰堤が消えて・・
植林が消えて・・」そう呟きながらどの時代にタイムスリップしたのか
考えていると背後から声をかける者が居た。
「その者達何をしておる!」やや低い声量が有る声ははっきりと聞こえた、
伊藤は何となく事態が掴めて来たが脳天気な鈴木は何も解らず
「何ですか?その言い方は!」と振り返ると同時に伊藤が
「ちょっと待て」と制御して言うともう一人の人物が
「その物言いは何だ、この方は・・」
「良い良い、この二人何か訳が有りそうだ、しかし妙な身なりじゃのう」
どう見てもそれぞれの二組のスタイルが合わない、偉そうな人物は
まだ分別が有りそうだがその相方は若くて血気盛んな様子。
「あ!!ロケ?何の??」鈴木はまだそんな事を言っている
「貴様ぁぁ!!」
「まぁまぁ、待て!」と相方を窘めた位の高そうな人物に
「すみません、今年は何年ですか?」と伊藤はたずねた、
遂に革新に入る会話が始まる。
「今年は元亀元年、今日は5月19日じゃ」
つづく
少し長くなりそうなので今回は連載にしました
第二部で大物が登場しますが最後の年号と日付で解った人は
ネタバレしないで下さいね。
三部作になりそうです。

鈴鹿山系には昔から北と南の端に大きな街道が有ったが
その間にも小規模ながら数本の街道が有り多くの人々が
利用していた、戦国時代には有名な武将達も良く利用していた、
その中の一つの街道に沿った谷で二人の青年に起きた出来事の
お話です。
「先輩!!イワナ居ます??」
「居ないことは無いが少ないだろうなぁ」
ご存知伊藤(時朗)と鈴木(幾三)の先輩後輩コンビだ、
さて今日はどんなドタバタが展開されるのか?
「琵琶湖にそそぐ川にはビワマスが居るって聞きましたけど・・・
釣れないかなぁ・・・」
「そりゃ昔の話だ、今じゃ湖北か湖西に少し上るだけだし
たとえ上ったとしても秋だ、この時期は指のサイズ」
そう言って人差し指を立てて大きさを表した。
「ビワマス」とは琵琶湖特有の鱒で琵琶湖を海に見立てた
「サツキマス」と言えば解りやすい、ただしビワマスは
梅雨時に湖に下り秋に川に上るので春に川を泳ぐビワマスは
とても小さいのである。
この谷は湖東では一二を争う大河の一つの支流で上流には
イワナが生息しているが放流されて自然繁殖した遊泳力の
強いアマゴはどんどんテリトリーを広げている、ところが
純粋な在来アマゴはまず居ない、ダムや堰堤が出来ると共に
降湖率の高いこの川のアマゴ(ビワマスの稚魚)は居なくなったと
されている。
川や魚の話は文中おいおいと入れるとして二人の釣りを見てみよう、
「先輩、今日はどんなフライでいきます??、EHC?ソラックスダン?」
「うーーん、解らん、まだ虫も飛んでないからソラックスダンかな?」
「はい、了ーー解!何時ものイエローですね」
二人は難なく20cmオーバーのアマゴを釣り上げ一つ目の堰堤の
下に着くと「おっとっと、ちょっと待て」無造作に淵に近づきそうな
鈴木を制止しながら「大きいのが居る」と続ける、
「何処何処?あー、居た居た」
「まあ落ち着けお前がハイテンションのままで釣るとろくな事はねぇ」
まずは同じフライを結び直してキャストする、良型アマゴの1メートル
前方にフライが着水し緩い流れに乗ったフライが魚の30cmほど上流に
差しかかるとスーッと寄って来た魚は何かを思い出したかの様に
元居た場所に戻ってしまった、魚の居場所を通過したフライは
静かにピックアップされて鈴木の手に戻った。
「あーあ戻っちゃった、ティペット太いかなぁ・・」
「いや、フライだな、サイズかパターンか、んーーん?・・・」
そう呟きながら伊藤はCDCダンやコンパラダンなどのハックルの無い
フライばかりのボックスから一つのフライを摘まんで
「これで行け」と渡したのはマラードダックのクイルを丸めて
巻いただけの「クランパーノーハックル」だった
「あれ!ノーハックルダンじゃないんですか?」
「まぁ俺の思い付きだ、ウイングだけにフロータント付けて
ボディーを水に浸して投げてみろ」
「なるほどなるほど、沈みかけ狙いですね」
鈴木が投げたフライは先ほどと同じ場所に落ちて同じ様に
流れて行く、多くの釣り人を落胆させた魚も美味しそうに
見えたのか静かに寄って来て一瞬ためらった後吸い込む様に
フライを加えた、「良し!!」「やったー!!」
ロッドは満月に曲がりラインがビュンビュンと音を立てて
震えると魚は上流に走りだし手繰る出すを二度ほど繰り返した
直後ラインのテンションが消えた。
「あーーーー!」
「ザンネーーーーン!!惜しかったね、ロッド立て過ぎかな?」
大物を逃した後二人はしっかり7寸サイズを釣ったがばらした事の
印象の方が数倍大きかったのは言うまでもなかろう。
しかし、それ以上の出来事が二人に降りかかろうとしていた。
「先輩、この堰堤どう巻きます??」そう言いながら鈴木は
周囲を見回している、「うーーん、林道まで戻るのも良いけど」
と言いながら指を差したのは淵の浅い方の横の崖、「あそこを巻くぞ!」
まず伊藤が先に登り始めて後少しと言う所で細い木を掴んで
少し躊躇している鈴木に手を差し伸べて「掴め!大丈夫だ」
例え落ちたとしても水深は浅く問題ない、
「ちゃんと持ってて下さいよ!えい!」と伊藤の手を掴んで二人分の
体重が細い木に掛かった時「ザクッ」と言う音と共に二人は落下
し始めた、その時周りは一瞬にして暗くなり周りの景色を消し
時計の針は目にも止まらぬ速さで回っていた事を二人は知らない。
「先輩!大丈夫ですか?」「おー、大丈夫だ、お前こそ・・・」
二人はロッドやリールを真っ先に確認してから怪我は無いかと
確かめたがまったく無傷だった。
「結構派手に落ちたんだけどなぁ、まぁ良いか、あれ?堰堤が・・・」
「ん??堰堤が消えたなあ、山は確かに鈴鹿の山なんだけど・・・」
「釣りましょ釣りましょ」
鈴木はポジティブ思考で対処しているが伊藤には他の違和感にも気づき
タイムスリップを確信したがそう思っているうちに鈴木が魚を釣った。
「先輩、さっきから小さいのが反応しますよ、おっと釣れた、小いせー」
「どれどれ、おや?これひょっとするとビワマスの稚魚かも・・・」
ところで普通のアマゴとビワマスの稚魚の見た目の違いは
まずサツキマスの様に背びれと尾びれの縁がグレー色で目が少し大きめなので
パッチリしている事、それくらいらしい。
伊藤は鈴木にイワナのポイントを重点的に狙う様に支持すると
「居ます!岩の横に大きな魚の影が有ります」
「そうか、大きなイワナと・・小さなビワマスと・・堰堤が消えて・・
植林が消えて・・」そう呟きながらどの時代にタイムスリップしたのか
考えていると背後から声をかける者が居た。
「その者達何をしておる!」やや低い声量が有る声ははっきりと聞こえた、
伊藤は何となく事態が掴めて来たが脳天気な鈴木は何も解らず
「何ですか?その言い方は!」と振り返ると同時に伊藤が
「ちょっと待て」と制御して言うともう一人の人物が
「その物言いは何だ、この方は・・」
「良い良い、この二人何か訳が有りそうだ、しかし妙な身なりじゃのう」
どう見てもそれぞれの二組のスタイルが合わない、偉そうな人物は
まだ分別が有りそうだがその相方は若くて血気盛んな様子。
「あ!!ロケ?何の??」鈴木はまだそんな事を言っている
「貴様ぁぁ!!」
「まぁまぁ、待て!」と相方を窘めた位の高そうな人物に
「すみません、今年は何年ですか?」と伊藤はたずねた、
遂に革新に入る会話が始まる。
「今年は元亀元年、今日は5月19日じゃ」
つづく
少し長くなりそうなので今回は連載にしました
第二部で大物が登場しますが最後の年号と日付で解った人は
ネタバレしないで下さいね。
三部作になりそうです。

2010年12月11日
「平家アマゴの伝説」
ブログサイズ読み切り小説「平家アマゴの伝説」

四月とは言えこの町では霜が降りる事も珍しくは無い、
霜が露に変わる頃二人は渓に続く細い杣道を歩き始める。
「よう!ウデ上げてるんだってなぁ」
からかうように伊藤がそう言うと
「いやぁ、まだまだですよ、もっと周りを見ないと・・」
一年ぶりに再会した伊藤と鈴木の先輩後輩コンビの再会である、
昨年の同行の後鈴木はメジャーな川や薮沢へ毎週でかけて腕を磨き
伊藤との再会に備えていたがガムシャラ過ぎた事を本人は
悔んでいる。
「今日はガンガン釣ってくれ、俺がこれで写真を撮ってやる」
と見せたのは透明の箱、この谷のアマゴの写真を沢山撮るために
用意した物で大きさは25センチで組み立て式にしてあり樹脂板の
角はしっかり面取りしてある。
「え!先輩、今日は釣らないんですか?せっかくあのキャスティングを
教えてもらおうと思ったのになぁ、で、今日のBGMは?」
「今日のBGMは1つの曲の繰り返しだ、本当はこの谷はゆっくり釣って
周囲の眺めを楽しむのが良いんだけど・・・狙いの魚が釣れれば後はまあ
のんびり行こうか」
そう言いながら再生スイッチを押すと「Amazing Grace」が聞こえて来た
「あ、ゴスペル(讃美歌)ですね、クリスチャンでなくても落ち着きます、
良ーし行くぞ!」
この谷はアマゴの谷だがイワナがいても不思議ではない渓相は
ダイナミックでこの地方では珍しい風景が釣り人を癒す、
渓相は中流と上流ではまったく違い上流は角度の広いV字谷で
日当たりは良いが谷へ下りるのは難儀この上ない、
これから入ろうとしている中流域は深いU字谷で東西方向に
流れているので3月下旬までは滅法日当たりが悪くほとんど
寒いまま終わり4月になると一気に日当たりが良くなり魚も
活動的になる。
「しっかり下を見て歩けよ、落ちたら終わりだからな」と
時々振りかえり鈴木が付いて来ている事を確認しながら歩くと
落ち葉が降り積もった斜面を登り降りた後は小石を敷き詰めた
危うい斜面の僅かな踏み跡を進みやっと堰堤の上に出る。
「先輩、居そうですねぇ」と竿袋からロッドを出そうとする鈴木を見て
「まだ早い!居ない事はないが次の堰堤の上の方が面白いぞ」
とたしなめ数匹の魚影を見送り堰堤を越えていよいよ目指す流れに着く。
鈴木はロッドをセットし伊藤はアクリルケースを組み立て堰堤上の
浅い流れをアマゴを求め始めると何気ない小さな変化のポイントで
一匹目のアマゴが釣れると同時に鈴木から伊藤にパスされる
「うーーん」と唸りながら上下左右から写真を撮ってすぐに
流れに戻した。
確認する余裕のないまま写真を撮りリリースする事を数回繰り返し
「やっぱり腕を上げたなぁ、もうちょっと型を揃えれば完璧だけど
まぁ今日は数が目的だから良いだろう」
「いやー、先輩の魚や周囲の風景を見る目も持ちたいですよぉ」
「次の課題ははタイイングだなシーズンオフに本格的にやってみるか?」
「えー、教えてくれるんですか?EHCとパラシュートは何とか巻けるんでー
次は”あれ”かな??」
「”あれ”はまだ早い、スタンダードからみっちり練習だ!」
ほんの一服の会話をしているうちに前方にこの谷で一番印象の
強い風景が現れた。
「先輩!何ですか?このすっげー景色は、こりゃまるで自然の
スリット堰堤じゃないですか」
幅は4メートル前後高さは20メートルくらい、両側が絶壁の
間を水が流れていて増水した時の風景を想像するとぞっとする、
少しでも大雨の可能性が有る日は絶対に入るべきではない事は
誰でも理解できる、もちろん伊藤は何時もの様に写真を撮っている。
「この谷に入ると絶対ここで写真を撮るんだよなぁ、
見飽きないんだよなぁ」
そんな会話を交わしながらもランディング、撮影、リリースと
繰り返されて行く、そんな中で時々写真を確認してニヤッと笑った。
BGMは「Amazing Grace」を様々なアーティストのカバーで14曲
入れてありアカペラ、ギターソロ、コーラス、讃美歌故のシンプルな
メロディーなのに深みが有りLeAnn の美声、Docの渋い声、Markの
フィドルが流れの音と融合していく。
しばらく上がると目の前にはこの谷には似合わない物が落ちている、
トラックの残骸である、しかし道ははるか50メートル上方でしかも
流れからは道を見る事は出来ない、もしも林道を走っている時に
落ちたのなら・・・
「先輩、これトラックですよねぇ、ドライバーはどうなったんでしょうねぇ」
「そりゃぁ天国行きだろうなぁ、それよりここは良いサイズ居るぞ、ほれ!
ライズした」
「任せてください」
18センチクラスと20センチオーバーのアマゴを釣りさらに奥の方を
狙うと横からはみ出した枝の下をラインがくぐりサイドキャストによる
水平ループが着水間際に垂直ループに変わりフライが上から落ちた、
その時トラックの残骸の影から8寸ほどのアマゴが走って来て
フライをくわえた、見事にランディングされてアクリルケースに
入れられると伊藤がニヤッ笑う。
「先輩、何がおかしんですか?」
「違うよ、してやったりの笑顔だよ、まぁ一服しようぜ」
そう言いながら伊藤はカメラを画像再生モードにして鈴木に
近寄り腰を下ろした。
「一匹目から写真を再生するからよく見ろよ、ほら、これ」
鈴木はしばらく見て「綺麗なアマゴだなぁ」
「それだけか?もう一度よく見ろ、特に朱点と黒点」
「あ!朱点が・・黒点が・・あ!あ!パーマークしか・・・
釣ってる時って解らないもんですねぇ、模様が色々有ったり
無かったり、うーーん気がつかないもんですねぇ」
「そうだろう、餌釣りの人たちは釣ったらすぐに魚篭に入れるから
まず気がつかないだろうなぁ」
「何故こんなアマゴが居るんですか?」
「そんな事解るかよ、解ったら学者になれらぁ、でもなぁ、基本形が
綺麗だから模様が少なかろうが薄かろうが綺麗なんだよ、良い音楽は
色んなアレンジをしても聞けるしこの谷の景色も飽きる事が無いんだ」
聞こえてくるのはヘイリー&本田美奈子のデュエット曲で日本語の詩でも
歌われている、作者のジョン・ニュートンはある年船で嵐に会った時に
初めて神に祈ったそうだ、助かったジョンはやがて牧師になりこの曲を
つくったと言う。
「アメイジング・グレイスねぇ・・・あ!そうか、僕ら釣り人にとっては
自然そのものが”神”なんだ、そうですよねぇ先輩」
「あぁ、そうかも知れないなぁ」
目的の魚も釣れたので後半は渓谷美を楽しみながら谷を上がって行く

ライズポイントでは良いサイズをじっくり狙い、すり鉢状の落ち込みで
チビアマゴを眺めたりしながら最後のゴルジュに着いた、この先は
急に険しくなり滝が二つ控えているので魚が溜まる場所だ、
「鈴木、ここで終わるからじっくり楽しめよ、ヒラキにも結構魚が
付いてるから注意しないとな」
鈴木はヒラキ、沈み石の横、奥の深みのそれぞれでアマゴを釣った
「おー!やるじゃないか、キャスティングももう俺を越えてるぞ、
トラックの残骸ポイントの平行ループから縦ループへのテクニックは
完璧だったぞ」
「楽しかったですよ、こんな綺麗な谷で綺麗なアマゴが釣れるなんて
最高です」
「こら!これから谷を折り返しだから浮かれて帰りにこけるなよ」
「えーー!折り返しですかぁ??、きっつー!」
案の定帰りに炭焼き窯跡の穴につまづきそうになった、
「あーー、おーーとっと!危ねぇ!なんで穴なんかあいてんの?」
「そうそう、この窯跡だけは珍しく石組の横に穴が空いてんだ
多分柱を立てたんじゃないかなぁ、この町の炭焼き小屋は三角屋根
しか見た事無いけどこれだけは変わった屋根が付いてたかも知れん」
「さすが先輩良く見てますねぇ」
「あー、この川で釣り始めて10年くらいたつけど良い所だぞ
お前も早くホームリバーを見つけろよ楽しいぞー、
さーて、あと40分くらいだしっかり足元を見て歩けよ」
二つ目のゴルジュを下り狭い谷の空に送電線が見える頃
最初のゴルジュが見えてくる。
「もう少しだぞ!」
「ハイ!」
と元気よく返事はしたがこの渓に慣れた伊藤の速足には
いくら若い鈴木と言えども初めての渓を下るつらさが
顔に出ていた。
堰堤で一服して最後のアルバイトで車に戻った二人は
ロッドを仕舞いウェーダーを脱ぎ放心状態で車にもたれていると
軽トラックがやって来た、中から70前後の爺さんが出てきて
「よー若いの、釣れたか?」
「はい結構釣れました」
「そうか釣れたか」
そう言うと昔は沢山居たが乱獲オヤジが居てめっきり減ってしまった事、
その乱獲オヤジが死んでから少し復活した事、☆☆谷の滝の上には
イワナしか居ない事などを話した所で伊藤が聞いてみた
「あのー、こんなアマゴが釣れるんですけど何かご存知有りませんか?」
とカメラの画像を再生させて見てもらうと
「おーお、やっぱり居るんか、良くもここまで詳しく撮ったもんじゃ
これはな”源氏アマゴ”って言ってたんだ」
「えー!!源氏アマゴ??、何ですかそれ」
伊藤と鈴木は完ぺきなユニゾンで聞き返した
「この話はワシの爺さんから聞いた伝説じゃがな、多言しちゃならんぞ
笑われるのが関の山じゃ、昔な平家の落人が本流の一番上の村の奥地に
やって来たんじゃ、結構身分の高そうなお姫様の様な人も居った、
それはそれは都の色白美人じゃったそうな、で、村の長は山奥じゃ
住みづらいと思って村の中で暮らす様に勧めてな、
そりゃ綺麗なお姫さんがヤマビルなんか見たら血を吸われる前に気絶する
じゃろう、で、一行は入って来たんじゃがすぐに源氏の追っ手が来ると
言う知らせが入ったんじゃが姫は迷惑がかかるといけないと考えてまた
山奥へ引き返してしまったんじゃ、ところが山奥へ戻る途足を踏み外して
谷に落ちてしまったんじゃ、運悪く水かさが多かったんでみるみるうちに
流されてそれっきり亡骸は出てこなかったそうじゃ、
追っ手は使えた者達には用は無いのでまた何処かへ探しにいったんじゃ、
何年か経って村が平穏になった頃変わった魚を捕った者が長の所へ
やって来て報告すると”これは平家の姫の化身じゃ捕ってはならん、
食おうものなら祟りが有る”との掟を立てたんじゃ、それはそれは
色白で銀白でまるで平家の姫の様な綺麗な魚じゃった、それがやがて
”平家アマゴ”とだれともなく言い始めたんじゃすると今度は
この谷で模様が変わった魚が捕れる様になったんでこれも自然に
”源氏アマゴ”と言われる様になったんじゃ、
しかし渓流釣りが盛んになって伝説も消えそうになってな
”平家アマゴ”も持ち帰られる様になって最近の調査では”絶滅したと
思われる”と判断されたそうじゃ」
「あ!その魚ってまったく模様の無いアマゴの事ですよねぇ」
「おーそうじゃ、あんた知ってんのか?」
「知ってるどころか2年くらい前に奥の谷で2匹釣りました、地味ですけど
確かに綺麗でした」
「まだ居ったか!色白美人じゃろ?そうかそうかまだ居ったのかまさしく
”平家アマゴ”じゃのう、それにしても源氏アマゴと平家アマゴに
出合うとは運が良いのぉ、また何処かで良い魚に出合うかも知れんな、
お、こんな時間になっちまった、まぁ頑張ってくれや・・釣りは良いのう」
と呟きながら爺さんは軽トラをトコトコ走らせて帰って行った。
「へー、源氏アマゴに平家アマゴか、すごい伝説ですねぇ、ひょっとすると
あの爺さんのオリジナルだったりして・・・」
「いや、そうでもないぞ、同じ源平の時代にこの町の街道に時々山賊が
現れて金品を奪って貧しい人たちに与えていて或る時義経がこの街道を
通る時にその山賊が襲ったが蹴散らされたと言う伝説も有るんだ、
村にとっての英雄は当然山賊だよな、
だから村が平家側を守るのもうなづけるなぁ、平家の落人の事を考えると
戦国武将の逃走を助けた可能性はありそうだしこの町は結局弱い者の
見方なんだな、伝説を知ると村人の気質が解るってことかな?」
「まぁまとめてみると、山良し、川良し、魚良し、そして人良し、ですか?」
「いや、もっと強く、故に人良し! か?、さて帰るぞ」
「ハイ!」
二人が帰る頃深い谷は明るさを保ちながらも日差しを失っていった。
さて、今回も伝説をでっちあげてしまいました、
しかし私が良く行く谷のそばの炭焼き集落には昔
平家の落人が移住してきて村人との融和のために
始めた祭りが今現在も毎年神社で催されています、
この事実を考えると戦国武将がこの村を逃走する時に
手助け以上の事をしたと思わざるをえません。
山賊の伝説も存在します、平家の落人、逃げ去る戦国武将、
歴史のわき役はこの町では立派な主役なんです。
ここに登場する伝説好きの爺さんは以前okirakuさんと
この谷を釣って車で後片付けをしている時に軽トラックで
やって来て色々釣り場の事を教えてくれた70歳を超えた
爺さんの事を思い出して書きました、或る谷の滝の上流で
イワナばかり釣れたそうですが私は滝までで精一杯でした、
あの爺さんは相当の腕前だったかも知れません。

四月とは言えこの町では霜が降りる事も珍しくは無い、
霜が露に変わる頃二人は渓に続く細い杣道を歩き始める。
「よう!ウデ上げてるんだってなぁ」
からかうように伊藤がそう言うと
「いやぁ、まだまだですよ、もっと周りを見ないと・・」
一年ぶりに再会した伊藤と鈴木の先輩後輩コンビの再会である、
昨年の同行の後鈴木はメジャーな川や薮沢へ毎週でかけて腕を磨き
伊藤との再会に備えていたがガムシャラ過ぎた事を本人は
悔んでいる。
「今日はガンガン釣ってくれ、俺がこれで写真を撮ってやる」
と見せたのは透明の箱、この谷のアマゴの写真を沢山撮るために
用意した物で大きさは25センチで組み立て式にしてあり樹脂板の
角はしっかり面取りしてある。
「え!先輩、今日は釣らないんですか?せっかくあのキャスティングを
教えてもらおうと思ったのになぁ、で、今日のBGMは?」
「今日のBGMは1つの曲の繰り返しだ、本当はこの谷はゆっくり釣って
周囲の眺めを楽しむのが良いんだけど・・・狙いの魚が釣れれば後はまあ
のんびり行こうか」
そう言いながら再生スイッチを押すと「Amazing Grace」が聞こえて来た
「あ、ゴスペル(讃美歌)ですね、クリスチャンでなくても落ち着きます、
良ーし行くぞ!」
この谷はアマゴの谷だがイワナがいても不思議ではない渓相は
ダイナミックでこの地方では珍しい風景が釣り人を癒す、
渓相は中流と上流ではまったく違い上流は角度の広いV字谷で
日当たりは良いが谷へ下りるのは難儀この上ない、
これから入ろうとしている中流域は深いU字谷で東西方向に
流れているので3月下旬までは滅法日当たりが悪くほとんど
寒いまま終わり4月になると一気に日当たりが良くなり魚も
活動的になる。
「しっかり下を見て歩けよ、落ちたら終わりだからな」と
時々振りかえり鈴木が付いて来ている事を確認しながら歩くと
落ち葉が降り積もった斜面を登り降りた後は小石を敷き詰めた
危うい斜面の僅かな踏み跡を進みやっと堰堤の上に出る。
「先輩、居そうですねぇ」と竿袋からロッドを出そうとする鈴木を見て
「まだ早い!居ない事はないが次の堰堤の上の方が面白いぞ」
とたしなめ数匹の魚影を見送り堰堤を越えていよいよ目指す流れに着く。
鈴木はロッドをセットし伊藤はアクリルケースを組み立て堰堤上の
浅い流れをアマゴを求め始めると何気ない小さな変化のポイントで
一匹目のアマゴが釣れると同時に鈴木から伊藤にパスされる
「うーーん」と唸りながら上下左右から写真を撮ってすぐに
流れに戻した。
確認する余裕のないまま写真を撮りリリースする事を数回繰り返し
「やっぱり腕を上げたなぁ、もうちょっと型を揃えれば完璧だけど
まぁ今日は数が目的だから良いだろう」
「いやー、先輩の魚や周囲の風景を見る目も持ちたいですよぉ」
「次の課題ははタイイングだなシーズンオフに本格的にやってみるか?」
「えー、教えてくれるんですか?EHCとパラシュートは何とか巻けるんでー
次は”あれ”かな??」
「”あれ”はまだ早い、スタンダードからみっちり練習だ!」
ほんの一服の会話をしているうちに前方にこの谷で一番印象の
強い風景が現れた。
「先輩!何ですか?このすっげー景色は、こりゃまるで自然の
スリット堰堤じゃないですか」
幅は4メートル前後高さは20メートルくらい、両側が絶壁の
間を水が流れていて増水した時の風景を想像するとぞっとする、
少しでも大雨の可能性が有る日は絶対に入るべきではない事は
誰でも理解できる、もちろん伊藤は何時もの様に写真を撮っている。
「この谷に入ると絶対ここで写真を撮るんだよなぁ、
見飽きないんだよなぁ」
そんな会話を交わしながらもランディング、撮影、リリースと
繰り返されて行く、そんな中で時々写真を確認してニヤッと笑った。
BGMは「Amazing Grace」を様々なアーティストのカバーで14曲
入れてありアカペラ、ギターソロ、コーラス、讃美歌故のシンプルな
メロディーなのに深みが有りLeAnn の美声、Docの渋い声、Markの
フィドルが流れの音と融合していく。
しばらく上がると目の前にはこの谷には似合わない物が落ちている、
トラックの残骸である、しかし道ははるか50メートル上方でしかも
流れからは道を見る事は出来ない、もしも林道を走っている時に
落ちたのなら・・・
「先輩、これトラックですよねぇ、ドライバーはどうなったんでしょうねぇ」
「そりゃぁ天国行きだろうなぁ、それよりここは良いサイズ居るぞ、ほれ!
ライズした」
「任せてください」
18センチクラスと20センチオーバーのアマゴを釣りさらに奥の方を
狙うと横からはみ出した枝の下をラインがくぐりサイドキャストによる
水平ループが着水間際に垂直ループに変わりフライが上から落ちた、
その時トラックの残骸の影から8寸ほどのアマゴが走って来て
フライをくわえた、見事にランディングされてアクリルケースに
入れられると伊藤がニヤッ笑う。
「先輩、何がおかしんですか?」
「違うよ、してやったりの笑顔だよ、まぁ一服しようぜ」
そう言いながら伊藤はカメラを画像再生モードにして鈴木に
近寄り腰を下ろした。
「一匹目から写真を再生するからよく見ろよ、ほら、これ」
鈴木はしばらく見て「綺麗なアマゴだなぁ」
「それだけか?もう一度よく見ろ、特に朱点と黒点」
「あ!朱点が・・黒点が・・あ!あ!パーマークしか・・・
釣ってる時って解らないもんですねぇ、模様が色々有ったり
無かったり、うーーん気がつかないもんですねぇ」
「そうだろう、餌釣りの人たちは釣ったらすぐに魚篭に入れるから
まず気がつかないだろうなぁ」
「何故こんなアマゴが居るんですか?」
「そんな事解るかよ、解ったら学者になれらぁ、でもなぁ、基本形が
綺麗だから模様が少なかろうが薄かろうが綺麗なんだよ、良い音楽は
色んなアレンジをしても聞けるしこの谷の景色も飽きる事が無いんだ」
聞こえてくるのはヘイリー&本田美奈子のデュエット曲で日本語の詩でも
歌われている、作者のジョン・ニュートンはある年船で嵐に会った時に
初めて神に祈ったそうだ、助かったジョンはやがて牧師になりこの曲を
つくったと言う。
「アメイジング・グレイスねぇ・・・あ!そうか、僕ら釣り人にとっては
自然そのものが”神”なんだ、そうですよねぇ先輩」
「あぁ、そうかも知れないなぁ」
目的の魚も釣れたので後半は渓谷美を楽しみながら谷を上がって行く

ライズポイントでは良いサイズをじっくり狙い、すり鉢状の落ち込みで
チビアマゴを眺めたりしながら最後のゴルジュに着いた、この先は
急に険しくなり滝が二つ控えているので魚が溜まる場所だ、
「鈴木、ここで終わるからじっくり楽しめよ、ヒラキにも結構魚が
付いてるから注意しないとな」
鈴木はヒラキ、沈み石の横、奥の深みのそれぞれでアマゴを釣った
「おー!やるじゃないか、キャスティングももう俺を越えてるぞ、
トラックの残骸ポイントの平行ループから縦ループへのテクニックは
完璧だったぞ」
「楽しかったですよ、こんな綺麗な谷で綺麗なアマゴが釣れるなんて
最高です」
「こら!これから谷を折り返しだから浮かれて帰りにこけるなよ」
「えーー!折り返しですかぁ??、きっつー!」
案の定帰りに炭焼き窯跡の穴につまづきそうになった、
「あーー、おーーとっと!危ねぇ!なんで穴なんかあいてんの?」
「そうそう、この窯跡だけは珍しく石組の横に穴が空いてんだ
多分柱を立てたんじゃないかなぁ、この町の炭焼き小屋は三角屋根
しか見た事無いけどこれだけは変わった屋根が付いてたかも知れん」
「さすが先輩良く見てますねぇ」
「あー、この川で釣り始めて10年くらいたつけど良い所だぞ
お前も早くホームリバーを見つけろよ楽しいぞー、
さーて、あと40分くらいだしっかり足元を見て歩けよ」
二つ目のゴルジュを下り狭い谷の空に送電線が見える頃
最初のゴルジュが見えてくる。
「もう少しだぞ!」
「ハイ!」
と元気よく返事はしたがこの渓に慣れた伊藤の速足には
いくら若い鈴木と言えども初めての渓を下るつらさが
顔に出ていた。
堰堤で一服して最後のアルバイトで車に戻った二人は
ロッドを仕舞いウェーダーを脱ぎ放心状態で車にもたれていると
軽トラックがやって来た、中から70前後の爺さんが出てきて
「よー若いの、釣れたか?」
「はい結構釣れました」
「そうか釣れたか」
そう言うと昔は沢山居たが乱獲オヤジが居てめっきり減ってしまった事、
その乱獲オヤジが死んでから少し復活した事、☆☆谷の滝の上には
イワナしか居ない事などを話した所で伊藤が聞いてみた
「あのー、こんなアマゴが釣れるんですけど何かご存知有りませんか?」
とカメラの画像を再生させて見てもらうと
「おーお、やっぱり居るんか、良くもここまで詳しく撮ったもんじゃ
これはな”源氏アマゴ”って言ってたんだ」
「えー!!源氏アマゴ??、何ですかそれ」
伊藤と鈴木は完ぺきなユニゾンで聞き返した
「この話はワシの爺さんから聞いた伝説じゃがな、多言しちゃならんぞ
笑われるのが関の山じゃ、昔な平家の落人が本流の一番上の村の奥地に
やって来たんじゃ、結構身分の高そうなお姫様の様な人も居った、
それはそれは都の色白美人じゃったそうな、で、村の長は山奥じゃ
住みづらいと思って村の中で暮らす様に勧めてな、
そりゃ綺麗なお姫さんがヤマビルなんか見たら血を吸われる前に気絶する
じゃろう、で、一行は入って来たんじゃがすぐに源氏の追っ手が来ると
言う知らせが入ったんじゃが姫は迷惑がかかるといけないと考えてまた
山奥へ引き返してしまったんじゃ、ところが山奥へ戻る途足を踏み外して
谷に落ちてしまったんじゃ、運悪く水かさが多かったんでみるみるうちに
流されてそれっきり亡骸は出てこなかったそうじゃ、
追っ手は使えた者達には用は無いのでまた何処かへ探しにいったんじゃ、
何年か経って村が平穏になった頃変わった魚を捕った者が長の所へ
やって来て報告すると”これは平家の姫の化身じゃ捕ってはならん、
食おうものなら祟りが有る”との掟を立てたんじゃ、それはそれは
色白で銀白でまるで平家の姫の様な綺麗な魚じゃった、それがやがて
”平家アマゴ”とだれともなく言い始めたんじゃすると今度は
この谷で模様が変わった魚が捕れる様になったんでこれも自然に
”源氏アマゴ”と言われる様になったんじゃ、
しかし渓流釣りが盛んになって伝説も消えそうになってな
”平家アマゴ”も持ち帰られる様になって最近の調査では”絶滅したと
思われる”と判断されたそうじゃ」
「あ!その魚ってまったく模様の無いアマゴの事ですよねぇ」
「おーそうじゃ、あんた知ってんのか?」
「知ってるどころか2年くらい前に奥の谷で2匹釣りました、地味ですけど
確かに綺麗でした」
「まだ居ったか!色白美人じゃろ?そうかそうかまだ居ったのかまさしく
”平家アマゴ”じゃのう、それにしても源氏アマゴと平家アマゴに
出合うとは運が良いのぉ、また何処かで良い魚に出合うかも知れんな、
お、こんな時間になっちまった、まぁ頑張ってくれや・・釣りは良いのう」
と呟きながら爺さんは軽トラをトコトコ走らせて帰って行った。
「へー、源氏アマゴに平家アマゴか、すごい伝説ですねぇ、ひょっとすると
あの爺さんのオリジナルだったりして・・・」
「いや、そうでもないぞ、同じ源平の時代にこの町の街道に時々山賊が
現れて金品を奪って貧しい人たちに与えていて或る時義経がこの街道を
通る時にその山賊が襲ったが蹴散らされたと言う伝説も有るんだ、
村にとっての英雄は当然山賊だよな、
だから村が平家側を守るのもうなづけるなぁ、平家の落人の事を考えると
戦国武将の逃走を助けた可能性はありそうだしこの町は結局弱い者の
見方なんだな、伝説を知ると村人の気質が解るってことかな?」
「まぁまとめてみると、山良し、川良し、魚良し、そして人良し、ですか?」
「いや、もっと強く、故に人良し! か?、さて帰るぞ」
「ハイ!」
二人が帰る頃深い谷は明るさを保ちながらも日差しを失っていった。
さて、今回も伝説をでっちあげてしまいました、
しかし私が良く行く谷のそばの炭焼き集落には昔
平家の落人が移住してきて村人との融和のために
始めた祭りが今現在も毎年神社で催されています、
この事実を考えると戦国武将がこの村を逃走する時に
手助け以上の事をしたと思わざるをえません。
山賊の伝説も存在します、平家の落人、逃げ去る戦国武将、
歴史のわき役はこの町では立派な主役なんです。
ここに登場する伝説好きの爺さんは以前okirakuさんと
この谷を釣って車で後片付けをしている時に軽トラックで
やって来て色々釣り場の事を教えてくれた70歳を超えた
爺さんの事を思い出して書きました、或る谷の滝の上流で
イワナばかり釣れたそうですが私は滝までで精一杯でした、
あの爺さんは相当の腕前だったかも知れません。

2010年06月06日
「朱点の誘惑」
「朱点の誘惑」
奥美濃の秋の陽は瞬く間に山に隠れ、黄昏から
漆黒に変わる頃白鳥の西の桧峠を幾つかの松明の
列が木々の間から洩れながらゆっくりと登って行く、
その同じ頃一山越えた石徹白のとある茶の間では。
「爺ちゃん、とうちゃんは?」
「とうちゃんはなぁ村のために今大変な事してんだ」
「まだ解らねえかなぁ」と言いながら竜之介は壁に掛けてある
アマゴのはく製を下ろして来た。
「こいつを運んでるんだ、綺麗だろ、竜一郎が立派な漁師に
なる頃はヤマメかアマゴのどっちが釣れるんかのう」
「あ!こればあちゃんの大切な箱の中に入ってた」
とアマゴの朱点を指さしながら竜一郎が言った
「あれはガラス玉じゃ」と言う竜之介の小声に
「解ってましたよ」とばあさんはほほ笑んだ。
さて、話を峠道に戻すと、二番目を歩くのは久藤竜太郎と言う
石徹白の専業川漁師、背中には一斗樽、樽の中身は郡上の
アマゴである、この昭和4年時点にすでに九頭竜川中流には
発電堰堤が築かれていてサクラマスは上れなくなりその影響か
上流のヤマメさえ減少傾向であった、竜太郎は予め郡上のアマゴの
習性や生態を調べ河川残留率が日本海へ流れる川のヤマメより
高い事を付き留めていた、樽の中の水温上昇を避けるためと
水がこぼれにくくするため小さな穴を開けただけの蓋をして
内部が真っ暗になる事への対応で新月の夜に決行した。
樽の中身はただアマゴが入っているだけではない、
酸素補給装置などなかった当時にどうしたのか?
炭を使ったのだ、まず底に炭を敷き詰め笊を乗せて錘の
石を乗せ谷の水を入れ炭の粉を溢れさせてやっとアマゴを
入れるので見た目より重く23センチから25センチの
親アマゴはそれほど沢山入る訳ではない、一樽6匹で
8樽、総数48匹、先頭は地面を丹念に見て出来るだけ
石ころを排除して後ろの担ぎ手の歩くルートを指示する、
二番手からは前の足を見ながら忠実に着いて歩く。
歩き始めてからすでに一里ほど歩いているが無言で
歩いている訳ではなく民謡を歌っている、水の揺れを防ぐための
リズムが乱れる事を防ぐのだ、しばらく「郡上節」を唄って
いたが道が険しくなって来た頃、乱れかけたリズムを整えるために
歌を変えようと竜太郎が合図を出した。
「さーて歩調を整えますよ!」
唄うのは歩調を合わせるだけでなくクマよけのためでもある。
次の歌は「即興桧越え節」と言い一人ずつ即興で歌詞を作って
唄っていく、最初に竜太郎から唄い始めた。
「♪杖突いて一里 這って一里 やっと越えても 転げて一里
杖の替わりに 桧を切れば 着いた頃には 摺り近木替わり♪」
こんな調子で唄い継いで峠を上って行った。
そして峠を越えて30分ほどでアマゴを放流する淵に
着き樽の蓋を開けると死んだアマゴが10匹、今にも
死にそうなものも2匹、生き残った36匹のアマゴは淵に放たれ
放流出来なかった12匹はすぐにさばき近くの作業小屋で
皆で焼いて食べた、この時の36匹のこそ九頭竜水系に
入った最初のアマゴであった。
その後も竜太郎は川漁師の傍ら何度もアマゴの移植を
繰り返し九頭竜川の発電堰堤より上流はほとんどの
流域でアマゴが釣れる様になった、その実績をかわれ
漁協の会長になり竜一郎が一人前の川漁師になった頃
職業としての釣りをやめると村会議員を経て村長になり
行政手腕を発揮した。
石徹白は古くから白山の信仰登山や修行の宿泊基地になって
いたので山間の小さな村にもかかわらず栄えていたが戦後に
なって信仰の登山者は減り修行者もほとんど来なくなって
しまった、そして初めてこの川にアマゴが移植された頃少年
だった竜一郎は村で最後の専業川漁師になっていた。
まだ数人専業川漁師が居る頃から竜一郎は村一番の腕前に
なっていて山の向こうの郡上でも少しずつ名前が知られ
「郡上の満作、石徹白の竜」と囁かれていた、そんな噂も
竜一郎の耳に届き一つの行動を起こした。
川漁師としてはまだ若い部類の35歳の竜一郎が
郡上に電話を掛けた「もしもし?満作さんでしょうか?
都合が良い日に一度アマゴ釣りでお手合わせ願えないでしょうか?」
「あー、あんたが石徹白の竜って言う川漁師か?・・そうだねぇ
一度一緒に釣ってみましょうか」
「有難うございます勉強させて下さい」とは言ったが気持は
「絶対沢山釣ってやる」と吠えていた
あの手この手と色々策を練って郡上へ赴くと満作さんは
余裕の顔で迎えていて
「ここから上流を2時間釣りましょう」と言う
ただ竿一本で釣ると言う事以外にルールを設けず釣りに
掛かった。
竜一郎も満作さんもどんどん釣って行きあっと言う間に
2時間が過ぎ満作さんの家で魚を出して比べると
竜一郎が20センチから30センチのアマゴを30匹
満作さんはと言うときっちり23センチのアマゴを
20匹、それを見た竜一郎は「あ!」と言って肩を落とした。
「竜さん、気付いたね?あんたまだ若いからそれで良いんだよ
ワシも若い頃良く言われたもんだよ
”こんなシケたアマゴ店で出せるか!!”ってな」
竜一郎が釣った30匹のアマゴにはハリスが絡んだ
傷が有ったり鱗が剥がれていたものが結構混ざっていて
竜一郎は勝負をする事に夢中になってただの凄腕の釣り人
になり下がっていたのだ、
「ワシらはなぁ競争は無意味なんだ、魚を沢山釣る事に
意味は無えんだ、必要な魚を必要な分釣るだけだ、
確かに郡上へアマゴを食べに来るお客さんは口も目も
肥えている、だからワシは綺麗なアマゴを型を揃えて釣るんだ、
でもなぁ、今日の竜さんの釣りは食べるお客さんの
事を考えて無えなぁ、石徹白には高級料亭も高級旅館も
無いだろうが来てくれるお客さんに違いは無ぇ
あんたまだ若いんだこれからはお客さんの顔を想像して
釣ろうや、せっかく先代の竜さんがこの郡上から大変な
思いをして石徹白へ入れたんじゃねえか、生かそうぜ、
なあ竜さん、あんたならきっと出来るよ」
「恐れ入りました、私が未熟でした」
「いやいや、腕は確かだよ、漁師って事を忘れねえ事だな
石徹白にはイワナも居るじゃねえか、良い仕事が出来るぜ」
竜一郎は急いで石徹白へ帰ってするべき事を考えるのだった。
10年ほどの時が過ぎ竜太郎が村長を退く前年に石徹白の
村にもスキー場が出来る話が出て来たがしばらく竜太郎は
反対していた、しかし二つの条件を出して受け入れる事にした
第一に従業員に村の人たちを大勢使う事、第二に大きな
宿泊施設を作らず民宿やペンションをメインにする事
この二つの条件によって冬の雇用が確保され石徹白の村は
年中人の絶えない村になった、竜太郎は最後に大きな
仕事をしてただの村民に戻り代々続く久藤家の長の
呼び名である「竜爺(タツ爺)」と呼ばれたが72歳で
他界した。
そして話は現在2010年春、石徹白に初めてアマゴが
移植されて80年ほど経過し東海地方では最も有名な釣り場
となりアメリカのあるの映画の影響でフライフィッシングの
ブームが訪れたがアメリカの広い川と日本の狭い川の
余りのギャップでブームがしぼんだ、しかし、いち早く
C&Rのエリアを設けて魚の自然繁殖が確認されると釣り人が
増えて来た、川では何時も誰かが竿を振り流れにはそこかしこに
アマゴやイワナが泳ぎ時として水面を破って姿を現す。
ある日一人のフライフィッシャーが見えているイワナを
相手に苦労している所に爺さんがやって来た、竜一郎だ、
もちろん手には竿を持っている、
「若いの!どうだい?」
「ダメです全然相手してくれません」
「そうじゃろう、最近釣り人が多くなってスレとるんじゃろう
ここ空いとるかのう?」
「はい、良いですよ」
フライフィッシャーは腕前を拝見する事にして少し下がった、
竜一郎はテンカラ仕掛けで流れの芯に毛バリを入れると
「あ!そこはさっきフライを流しましたが出ませんでしたよ」
「いや居るよ、あんたの毛バリが無視されただけや」
するとすぐに竿が曲がった、と思った直後竜一郎は糸を緩めて
「ん?小さい」と一言言い毛バリを水から出した、一歩前進して
底に岩が沈んでいる前に毛バリを入れ岩の横を流すと毛バリに
付いた金色の球が水面辺りに見える直前で良い型のアマゴが反転してくわえた。
フライフィッシャーが掛かった魚をわざと外す技術と毛バリを
流す見事な竿さばきに見入って唖然としているうちに釣った
アマゴを手にした竜一郎はすでに土手に上がりかけていた、
「あ!お爺さんここはキャッ・・・、素早いなぁ、しかし
すごい腕前だ、何者??」
その時土手の上にはちょうどお巡りさんが自転車で
通り掛かって来た。
「あ!お巡りさん、あの爺さんここで釣って持って
帰っちゃいましたよ」
「あー、あの爺さんは竜爺と言って私たちには何も
言えないんだよ、漁協には言ってるんだけどね」
「そんな事で良いんですか?まずいでしょう?」
「実はね、大変な人なんだよ」
お巡りさんは仕方なく石徹白にアマゴが移植された
経緯から延々と話さなくてはならなくなり
長い話を聞き終えたフライフィッシャーは
「それはそれ、これはこれ話は別問題でしょう」
「すまないが我慢してくれ、せめて爺さんの目が黒いうちは・・・」
と言いながら自転車に乗って立ち去ってしまった、
こんな事が何度か有り村の問題になりかけていた。
夏になり川沿いの木陰で老人と青年が座って話している
竜一郎と竜太郎である、久藤家の長男は竜太郎、竜一郎、竜之介の
三つの名前を継承する事になっているので竜一郎の父と孫は同じ
名前になる、竜太郎の父である竜之介は川漁師になる事を諦め
アマゴとイワナを養殖している、
「爺ちゃん、このあいだ父ちゃんの養殖場に誰かが飼料を売りに
来てさぁ父ちゃんがすげー怒ってたよ、持って来た写真を見て
”こんなんアマゴじゃねえ!帰れ!”って、業者は速く育つとか
派手で綺麗に見えるとか言ってた、南の方から来た感じだったなぁ、
あれ、今日は竿忘れたんか?」
「忘れた訳じゃねえが最近ますます目が見えんようになって来たし
リリースリリースってカタカナ言葉言いやがってうるさくてかなわん、
そろそろ潮時かのう」しかめっ面と諦め顔を足したような顔でそう言った。
「ところで竜太郎、この村で生きていくんか?」
「あったりまえだよ、こんな良い村出てたまるかよ冬はスキー場で
働いて春から秋にかけて釣りのガイドをしたり、出来ればフライの
ショップをやりたいなぁ」
「竜太郎なら何でも出来るじゃろう、手先も器用だからなぁ、わしが
老眼で見にくくなったころ中学生のおまえが夕まずめ用にハリス付きの
毛バリを作ってくれたのが助かったなぁ、良いアマゴが沢山釣れたぞ」
その時近くの岩のそばで大きな魚がライズした、
「爺ちゃん、こんなフライ巻いて来たんだ」と言って
竜爺に見せたのは黒いフライ、「タンデムアントパラシュート
って言うんだ、地面にはアリもウロウロしてるしな」
「カタカナは苦手じゃけどこれはアリか?」
「そうだよ、水面にやっとへばりついてるアリとそいつの尻につかまって
水中でもがいてるアリの様子をフライにしたんだ、今ライズしたイワナを
釣るから見ててくれ」
「ここの見える魚は手ごわいぞ!釣れるかなぁ?」
後ろに置いてあったロッドを手にしてフライを結び三回のフォルスキャスト
の後フライは岩を目がけて飛んで行く、フライはスピードを落とす事無く
岩にコツンと当たり巻き返しの弛みに落ちゆっくりと流れ始める時静かに
消えた、
「ヨシ!」一瞬の呼吸をおいて立ったロッドは
満月に曲がった、
「お!下のアリを吸い込みやがったな、見事じゃ、また腕を上げおったな」
竜太郎は大イワナを寄せながら左手の親指を立てて見せた、
大イワナはすぐに流れに放たれ竜太郎はすぐにロッドを仕舞った、
「一匹で良いんか?」
「充分だよ爺ちゃん、沢山釣る事に興味は無いよ、納得の一匹に尽きるんだ、
ガイドをするようになったら爺ちゃんやオヤジから聞いた色んな事話して
やるんだ、そうすりゃ釣れたアマゴやイワナがもっと綺麗に見えるだろ?」
「そうじゃなぁまったくその通りじゃ、釣りだけが釣りじゃあ無ぇ、
色んな物が見えるやつが一番の釣り人かも知れんなぁ」
爺さんと孫は互いに納得し合い同じ家路へと足を運んだ。
数日後久藤の本家に村で一人の医者が駆けつけた、竜一郎が倒れたのだ、
そのニュースはすぐに村中に広がり久藤一族の男衆が集まりさらに多くの
人たちが集まり如何に久藤家がこの村で重要な家族かを物語っていた
医者は常に脈をとり時計を見る、
「先生、オヤジは?」
「うーーん、今夜越せるか・・難しいかも知れん」
固唾をのんで見守っていると微かに声がしている
「竜之介・・」
「オヤジ!無理するな!」
「釣りばっかりして何も残せんですまんなぁ」
「オヤジの釣りの技はみんな受け継いだぞ」
「竜太郎・・」
「爺ちゃん、何?」
「おまえは釣りの心と技を極めてアマゴやイワナを
護ってくれ」
「うん、ずーっと護って行くから!」
「竜男や竜哉も家族や村を大切にな・・・・ゴホッゴホッ」
と咳き込んだ直後息は途絶えた。
脈が止まった事を確認した医者は「残念ですが息を引き取られました、
竿一本で家族を守り何度も村を助けました、大きな人でした」
その時誰からともなく歌が聞こえて来た
「杖突き一里 這って一里 やっと越えても 転げて一里」
歌声はすすり泣く声に交ざって聞こえ
「杖の替わりに 桧を切れば 越える頃には 摺り近木替わり」
誰かが唄う先代の竜太郎の詩に続き竜之介が竜一郎の詩を
唄う「鹿に出合えば 鹿に聞け 猿に出合えば 猿に聞け
クマはそろそろ 籠ったか? クマより怖い 山の神(奥さん)」
組合の寄り合いでは何時も笑いを誘うのだがこの日ばかりは涙を煽る、
その時、外から漁協の組合長とおまわりさんが駆け込んで来た
「竜爺!すまねぇ、最後まで気兼ねなく釣りをさせてやれなくて・・・」
「俺たちが刈入れ時で忙しい時に何も言わずきっちり型を揃えて用意してくれた
”ここの魚はみんなのもんじゃ”って言っとったのに何も恩返しも出来ず・・・」
青年竜太郎も唄い始めた
「白山見上げて 毛バリを打てば 淵の影からイワナが出るよ
昔話を 爺様に聞けば 釣れた魚に 皆惚れる」
弔いの唄は一晩中続き葬儀の最後に喪主の竜之介が挨拶をした
「皆さん、父の葬儀にご列席誠に有難う御座います、今も天国の川で
竿を振っている事でしょう、祖父の竜太郎から父の竜一郎へそして
私へと継いだ形見はこの川に棲むアマゴやイワナと思ってますが
村の人々そして釣り人や訪れる人々への形見でもあります
愚息と共に護って行くつもりです、祖父や父には遠く及ばないとは
思いますが今後とも宜しくお願いします」
「竜之介さん!みんなで護って行くからな!」
「みんなでやって行こうなぁ!」
「有難う御座います、有難う御座います」
葬儀は終わり1年が過ぎ静かな村の川には数人の釣り人が
竿を振り釣れた魚を笑顔で流れに戻す、在りし日の
竜爺さんが何時も竿を振っていた流れの横には2体の
銅像と記念碑が建っている、記念碑に何と書かれていたか
ここに書くまでもあるまい。
こうして「朱点の誘惑」は語り継がれて行きました。
終わり
参考書籍
鈴野藤夫 著「峠を越えた魚」平凡社
「峠を越えた魚」と言う本を買い読んでいるうちに
「朱点の誘惑」と言うテーマが浮かびましたがなかなか構想までは
出来ませんでした、ところが初めて石徹白のC&Rで釣りをして
一気に構想が浮かんできました。
物語の主人公は架空の人物ですが石徹白にアマゴを移植したのは
須甲末太郎と言う実在の人物です、文中では川漁師として書いていますが
漁協の組合長を経て石徹白の村長にもなった人です、晩年には
さながら仙人の風貌だったそうです。
もう一人、郡上には古田満吉さんと言うすごい専業川漁師が
実在しシーズン中に400キロ以上のアマゴを釣っていたそうです
もちろん高級料亭や旅館に納めていたので綺麗で型の揃った
アマゴばかりだったそうです。
この物語の中の「即興桧越え節」は私が勝手に考えました
もちろんメロディーは有りません。
これを読んでから石徹白で釣れた魚がさらに綺麗に
見えたら私は嬉しいです。
奥美濃の秋の陽は瞬く間に山に隠れ、黄昏から
漆黒に変わる頃白鳥の西の桧峠を幾つかの松明の
列が木々の間から洩れながらゆっくりと登って行く、
その同じ頃一山越えた石徹白のとある茶の間では。
「爺ちゃん、とうちゃんは?」
「とうちゃんはなぁ村のために今大変な事してんだ」
「まだ解らねえかなぁ」と言いながら竜之介は壁に掛けてある
アマゴのはく製を下ろして来た。
「こいつを運んでるんだ、綺麗だろ、竜一郎が立派な漁師に
なる頃はヤマメかアマゴのどっちが釣れるんかのう」
「あ!こればあちゃんの大切な箱の中に入ってた」
とアマゴの朱点を指さしながら竜一郎が言った
「あれはガラス玉じゃ」と言う竜之介の小声に
「解ってましたよ」とばあさんはほほ笑んだ。
さて、話を峠道に戻すと、二番目を歩くのは久藤竜太郎と言う
石徹白の専業川漁師、背中には一斗樽、樽の中身は郡上の
アマゴである、この昭和4年時点にすでに九頭竜川中流には
発電堰堤が築かれていてサクラマスは上れなくなりその影響か
上流のヤマメさえ減少傾向であった、竜太郎は予め郡上のアマゴの
習性や生態を調べ河川残留率が日本海へ流れる川のヤマメより
高い事を付き留めていた、樽の中の水温上昇を避けるためと
水がこぼれにくくするため小さな穴を開けただけの蓋をして
内部が真っ暗になる事への対応で新月の夜に決行した。
樽の中身はただアマゴが入っているだけではない、
酸素補給装置などなかった当時にどうしたのか?
炭を使ったのだ、まず底に炭を敷き詰め笊を乗せて錘の
石を乗せ谷の水を入れ炭の粉を溢れさせてやっとアマゴを
入れるので見た目より重く23センチから25センチの
親アマゴはそれほど沢山入る訳ではない、一樽6匹で
8樽、総数48匹、先頭は地面を丹念に見て出来るだけ
石ころを排除して後ろの担ぎ手の歩くルートを指示する、
二番手からは前の足を見ながら忠実に着いて歩く。
歩き始めてからすでに一里ほど歩いているが無言で
歩いている訳ではなく民謡を歌っている、水の揺れを防ぐための
リズムが乱れる事を防ぐのだ、しばらく「郡上節」を唄って
いたが道が険しくなって来た頃、乱れかけたリズムを整えるために
歌を変えようと竜太郎が合図を出した。
「さーて歩調を整えますよ!」
唄うのは歩調を合わせるだけでなくクマよけのためでもある。
次の歌は「即興桧越え節」と言い一人ずつ即興で歌詞を作って
唄っていく、最初に竜太郎から唄い始めた。
「♪杖突いて一里 這って一里 やっと越えても 転げて一里
杖の替わりに 桧を切れば 着いた頃には 摺り近木替わり♪」
こんな調子で唄い継いで峠を上って行った。
そして峠を越えて30分ほどでアマゴを放流する淵に
着き樽の蓋を開けると死んだアマゴが10匹、今にも
死にそうなものも2匹、生き残った36匹のアマゴは淵に放たれ
放流出来なかった12匹はすぐにさばき近くの作業小屋で
皆で焼いて食べた、この時の36匹のこそ九頭竜水系に
入った最初のアマゴであった。
その後も竜太郎は川漁師の傍ら何度もアマゴの移植を
繰り返し九頭竜川の発電堰堤より上流はほとんどの
流域でアマゴが釣れる様になった、その実績をかわれ
漁協の会長になり竜一郎が一人前の川漁師になった頃
職業としての釣りをやめると村会議員を経て村長になり
行政手腕を発揮した。
石徹白は古くから白山の信仰登山や修行の宿泊基地になって
いたので山間の小さな村にもかかわらず栄えていたが戦後に
なって信仰の登山者は減り修行者もほとんど来なくなって
しまった、そして初めてこの川にアマゴが移植された頃少年
だった竜一郎は村で最後の専業川漁師になっていた。
まだ数人専業川漁師が居る頃から竜一郎は村一番の腕前に
なっていて山の向こうの郡上でも少しずつ名前が知られ
「郡上の満作、石徹白の竜」と囁かれていた、そんな噂も
竜一郎の耳に届き一つの行動を起こした。
川漁師としてはまだ若い部類の35歳の竜一郎が
郡上に電話を掛けた「もしもし?満作さんでしょうか?
都合が良い日に一度アマゴ釣りでお手合わせ願えないでしょうか?」
「あー、あんたが石徹白の竜って言う川漁師か?・・そうだねぇ
一度一緒に釣ってみましょうか」
「有難うございます勉強させて下さい」とは言ったが気持は
「絶対沢山釣ってやる」と吠えていた
あの手この手と色々策を練って郡上へ赴くと満作さんは
余裕の顔で迎えていて
「ここから上流を2時間釣りましょう」と言う
ただ竿一本で釣ると言う事以外にルールを設けず釣りに
掛かった。
竜一郎も満作さんもどんどん釣って行きあっと言う間に
2時間が過ぎ満作さんの家で魚を出して比べると
竜一郎が20センチから30センチのアマゴを30匹
満作さんはと言うときっちり23センチのアマゴを
20匹、それを見た竜一郎は「あ!」と言って肩を落とした。
「竜さん、気付いたね?あんたまだ若いからそれで良いんだよ
ワシも若い頃良く言われたもんだよ
”こんなシケたアマゴ店で出せるか!!”ってな」
竜一郎が釣った30匹のアマゴにはハリスが絡んだ
傷が有ったり鱗が剥がれていたものが結構混ざっていて
竜一郎は勝負をする事に夢中になってただの凄腕の釣り人
になり下がっていたのだ、
「ワシらはなぁ競争は無意味なんだ、魚を沢山釣る事に
意味は無えんだ、必要な魚を必要な分釣るだけだ、
確かに郡上へアマゴを食べに来るお客さんは口も目も
肥えている、だからワシは綺麗なアマゴを型を揃えて釣るんだ、
でもなぁ、今日の竜さんの釣りは食べるお客さんの
事を考えて無えなぁ、石徹白には高級料亭も高級旅館も
無いだろうが来てくれるお客さんに違いは無ぇ
あんたまだ若いんだこれからはお客さんの顔を想像して
釣ろうや、せっかく先代の竜さんがこの郡上から大変な
思いをして石徹白へ入れたんじゃねえか、生かそうぜ、
なあ竜さん、あんたならきっと出来るよ」
「恐れ入りました、私が未熟でした」
「いやいや、腕は確かだよ、漁師って事を忘れねえ事だな
石徹白にはイワナも居るじゃねえか、良い仕事が出来るぜ」
竜一郎は急いで石徹白へ帰ってするべき事を考えるのだった。
10年ほどの時が過ぎ竜太郎が村長を退く前年に石徹白の
村にもスキー場が出来る話が出て来たがしばらく竜太郎は
反対していた、しかし二つの条件を出して受け入れる事にした
第一に従業員に村の人たちを大勢使う事、第二に大きな
宿泊施設を作らず民宿やペンションをメインにする事
この二つの条件によって冬の雇用が確保され石徹白の村は
年中人の絶えない村になった、竜太郎は最後に大きな
仕事をしてただの村民に戻り代々続く久藤家の長の
呼び名である「竜爺(タツ爺)」と呼ばれたが72歳で
他界した。
そして話は現在2010年春、石徹白に初めてアマゴが
移植されて80年ほど経過し東海地方では最も有名な釣り場
となりアメリカのあるの映画の影響でフライフィッシングの
ブームが訪れたがアメリカの広い川と日本の狭い川の
余りのギャップでブームがしぼんだ、しかし、いち早く
C&Rのエリアを設けて魚の自然繁殖が確認されると釣り人が
増えて来た、川では何時も誰かが竿を振り流れにはそこかしこに
アマゴやイワナが泳ぎ時として水面を破って姿を現す。
ある日一人のフライフィッシャーが見えているイワナを
相手に苦労している所に爺さんがやって来た、竜一郎だ、
もちろん手には竿を持っている、
「若いの!どうだい?」
「ダメです全然相手してくれません」
「そうじゃろう、最近釣り人が多くなってスレとるんじゃろう
ここ空いとるかのう?」
「はい、良いですよ」
フライフィッシャーは腕前を拝見する事にして少し下がった、
竜一郎はテンカラ仕掛けで流れの芯に毛バリを入れると
「あ!そこはさっきフライを流しましたが出ませんでしたよ」
「いや居るよ、あんたの毛バリが無視されただけや」
するとすぐに竿が曲がった、と思った直後竜一郎は糸を緩めて
「ん?小さい」と一言言い毛バリを水から出した、一歩前進して
底に岩が沈んでいる前に毛バリを入れ岩の横を流すと毛バリに
付いた金色の球が水面辺りに見える直前で良い型のアマゴが反転してくわえた。
フライフィッシャーが掛かった魚をわざと外す技術と毛バリを
流す見事な竿さばきに見入って唖然としているうちに釣った
アマゴを手にした竜一郎はすでに土手に上がりかけていた、
「あ!お爺さんここはキャッ・・・、素早いなぁ、しかし
すごい腕前だ、何者??」
その時土手の上にはちょうどお巡りさんが自転車で
通り掛かって来た。
「あ!お巡りさん、あの爺さんここで釣って持って
帰っちゃいましたよ」
「あー、あの爺さんは竜爺と言って私たちには何も
言えないんだよ、漁協には言ってるんだけどね」
「そんな事で良いんですか?まずいでしょう?」
「実はね、大変な人なんだよ」
お巡りさんは仕方なく石徹白にアマゴが移植された
経緯から延々と話さなくてはならなくなり
長い話を聞き終えたフライフィッシャーは
「それはそれ、これはこれ話は別問題でしょう」
「すまないが我慢してくれ、せめて爺さんの目が黒いうちは・・・」
と言いながら自転車に乗って立ち去ってしまった、
こんな事が何度か有り村の問題になりかけていた。
夏になり川沿いの木陰で老人と青年が座って話している
竜一郎と竜太郎である、久藤家の長男は竜太郎、竜一郎、竜之介の
三つの名前を継承する事になっているので竜一郎の父と孫は同じ
名前になる、竜太郎の父である竜之介は川漁師になる事を諦め
アマゴとイワナを養殖している、
「爺ちゃん、このあいだ父ちゃんの養殖場に誰かが飼料を売りに
来てさぁ父ちゃんがすげー怒ってたよ、持って来た写真を見て
”こんなんアマゴじゃねえ!帰れ!”って、業者は速く育つとか
派手で綺麗に見えるとか言ってた、南の方から来た感じだったなぁ、
あれ、今日は竿忘れたんか?」
「忘れた訳じゃねえが最近ますます目が見えんようになって来たし
リリースリリースってカタカナ言葉言いやがってうるさくてかなわん、
そろそろ潮時かのう」しかめっ面と諦め顔を足したような顔でそう言った。
「ところで竜太郎、この村で生きていくんか?」
「あったりまえだよ、こんな良い村出てたまるかよ冬はスキー場で
働いて春から秋にかけて釣りのガイドをしたり、出来ればフライの
ショップをやりたいなぁ」
「竜太郎なら何でも出来るじゃろう、手先も器用だからなぁ、わしが
老眼で見にくくなったころ中学生のおまえが夕まずめ用にハリス付きの
毛バリを作ってくれたのが助かったなぁ、良いアマゴが沢山釣れたぞ」
その時近くの岩のそばで大きな魚がライズした、
「爺ちゃん、こんなフライ巻いて来たんだ」と言って
竜爺に見せたのは黒いフライ、「タンデムアントパラシュート
って言うんだ、地面にはアリもウロウロしてるしな」
「カタカナは苦手じゃけどこれはアリか?」
「そうだよ、水面にやっとへばりついてるアリとそいつの尻につかまって
水中でもがいてるアリの様子をフライにしたんだ、今ライズしたイワナを
釣るから見ててくれ」
「ここの見える魚は手ごわいぞ!釣れるかなぁ?」
後ろに置いてあったロッドを手にしてフライを結び三回のフォルスキャスト
の後フライは岩を目がけて飛んで行く、フライはスピードを落とす事無く
岩にコツンと当たり巻き返しの弛みに落ちゆっくりと流れ始める時静かに
消えた、
「ヨシ!」一瞬の呼吸をおいて立ったロッドは
満月に曲がった、
「お!下のアリを吸い込みやがったな、見事じゃ、また腕を上げおったな」
竜太郎は大イワナを寄せながら左手の親指を立てて見せた、
大イワナはすぐに流れに放たれ竜太郎はすぐにロッドを仕舞った、
「一匹で良いんか?」
「充分だよ爺ちゃん、沢山釣る事に興味は無いよ、納得の一匹に尽きるんだ、
ガイドをするようになったら爺ちゃんやオヤジから聞いた色んな事話して
やるんだ、そうすりゃ釣れたアマゴやイワナがもっと綺麗に見えるだろ?」
「そうじゃなぁまったくその通りじゃ、釣りだけが釣りじゃあ無ぇ、
色んな物が見えるやつが一番の釣り人かも知れんなぁ」
爺さんと孫は互いに納得し合い同じ家路へと足を運んだ。
数日後久藤の本家に村で一人の医者が駆けつけた、竜一郎が倒れたのだ、
そのニュースはすぐに村中に広がり久藤一族の男衆が集まりさらに多くの
人たちが集まり如何に久藤家がこの村で重要な家族かを物語っていた
医者は常に脈をとり時計を見る、
「先生、オヤジは?」
「うーーん、今夜越せるか・・難しいかも知れん」
固唾をのんで見守っていると微かに声がしている
「竜之介・・」
「オヤジ!無理するな!」
「釣りばっかりして何も残せんですまんなぁ」
「オヤジの釣りの技はみんな受け継いだぞ」
「竜太郎・・」
「爺ちゃん、何?」
「おまえは釣りの心と技を極めてアマゴやイワナを
護ってくれ」
「うん、ずーっと護って行くから!」
「竜男や竜哉も家族や村を大切にな・・・・ゴホッゴホッ」
と咳き込んだ直後息は途絶えた。
脈が止まった事を確認した医者は「残念ですが息を引き取られました、
竿一本で家族を守り何度も村を助けました、大きな人でした」
その時誰からともなく歌が聞こえて来た
「杖突き一里 這って一里 やっと越えても 転げて一里」
歌声はすすり泣く声に交ざって聞こえ
「杖の替わりに 桧を切れば 越える頃には 摺り近木替わり」
誰かが唄う先代の竜太郎の詩に続き竜之介が竜一郎の詩を
唄う「鹿に出合えば 鹿に聞け 猿に出合えば 猿に聞け
クマはそろそろ 籠ったか? クマより怖い 山の神(奥さん)」
組合の寄り合いでは何時も笑いを誘うのだがこの日ばかりは涙を煽る、
その時、外から漁協の組合長とおまわりさんが駆け込んで来た
「竜爺!すまねぇ、最後まで気兼ねなく釣りをさせてやれなくて・・・」
「俺たちが刈入れ時で忙しい時に何も言わずきっちり型を揃えて用意してくれた
”ここの魚はみんなのもんじゃ”って言っとったのに何も恩返しも出来ず・・・」
青年竜太郎も唄い始めた
「白山見上げて 毛バリを打てば 淵の影からイワナが出るよ
昔話を 爺様に聞けば 釣れた魚に 皆惚れる」
弔いの唄は一晩中続き葬儀の最後に喪主の竜之介が挨拶をした
「皆さん、父の葬儀にご列席誠に有難う御座います、今も天国の川で
竿を振っている事でしょう、祖父の竜太郎から父の竜一郎へそして
私へと継いだ形見はこの川に棲むアマゴやイワナと思ってますが
村の人々そして釣り人や訪れる人々への形見でもあります
愚息と共に護って行くつもりです、祖父や父には遠く及ばないとは
思いますが今後とも宜しくお願いします」
「竜之介さん!みんなで護って行くからな!」
「みんなでやって行こうなぁ!」
「有難う御座います、有難う御座います」
葬儀は終わり1年が過ぎ静かな村の川には数人の釣り人が
竿を振り釣れた魚を笑顔で流れに戻す、在りし日の
竜爺さんが何時も竿を振っていた流れの横には2体の
銅像と記念碑が建っている、記念碑に何と書かれていたか
ここに書くまでもあるまい。
こうして「朱点の誘惑」は語り継がれて行きました。
終わり
参考書籍
鈴野藤夫 著「峠を越えた魚」平凡社
「峠を越えた魚」と言う本を買い読んでいるうちに
「朱点の誘惑」と言うテーマが浮かびましたがなかなか構想までは
出来ませんでした、ところが初めて石徹白のC&Rで釣りをして
一気に構想が浮かんできました。
物語の主人公は架空の人物ですが石徹白にアマゴを移植したのは
須甲末太郎と言う実在の人物です、文中では川漁師として書いていますが
漁協の組合長を経て石徹白の村長にもなった人です、晩年には
さながら仙人の風貌だったそうです。
もう一人、郡上には古田満吉さんと言うすごい専業川漁師が
実在しシーズン中に400キロ以上のアマゴを釣っていたそうです
もちろん高級料亭や旅館に納めていたので綺麗で型の揃った
アマゴばかりだったそうです。
この物語の中の「即興桧越え節」は私が勝手に考えました
もちろんメロディーは有りません。
これを読んでから石徹白で釣れた魚がさらに綺麗に
見えたら私は嬉しいです。

2010年05月04日
「ツッテケ淵の大アマゴ」
もっと短い短編小説
今年もやって来ました伊藤
と鈴木
の先輩後輩コンビ、
さてどんな釣りになるのかはたまたどんな出来事が
起こるのか「ツッテケ淵の大アマゴ」の始まり始まり!!
今日入る谷は去年と同じ「時忘れの谷」
「先輩、今年もここですか?」
鈴木の心配顔を見て伊藤は
「心配するな今日は昼間だけだし身軽ですばやく逃げられるさ、
来年はあっちの谷へ入ろうぜ」
伊藤は本流をはさんで反対側の山を指さして更に話す
「あそこに”渡り廊下の谷”ってのが有るんだ、ここが
”静”だとするとあそこは”動”だな、良いぞー楽しみに
しとけよー」
「何か怪しげな名前ですねぇ、で、今日のBGMは??」
「今年はこれだ!」
とスイッチを押して流れて来た曲はボブ・ディランの「風に吹かれて」、
「前も思ったんですけどぉ、先輩の名前幾三でしたよねぇ、何でカントリーや
フォークなんですか?」
「名前と好きな歌は関係ねえだろう、そう言うお前だって時朗じゃねえか、
遅刻ばっかりしてないで時間を大切にしろよ!」
「だからここに来るんでしょ先輩、でもなぁ・・・なにも起きなければ
良い谷なんだけどなぁ」
やはり昨年の出来事には相当参っているようだ
この川は中流域から盆地の中を流れていて四月と言えども
時々霜が降りる、さらにその奥の谷へ入るには一枚も
二枚も重ね着が必要となる。
「ちょっと寒いなー、まずはスローペースで行くぞ」
「そうですね、ゆっくりいきましょう」
長く細い獣道を下りて竿袋から出したロッドをつなぎ
話を続けながら明るいブラウンカラーに付いたスネークガイドの
フットが透けて見える鈴木のロッドを見て伊藤が言う
「お!グラスロッドか、ちゃんとキャスト出来るんだろうなぁ」
「今年の解禁から使い馴らしてますよー、そりゃぁ最初は苦労しましたよ、
ついカーボンロッドの癖が出ちゃうんですよねぇ」
流れは細くプール、深瀬、落ち込み、浅瀬を何度も繰り返しその
瀬音と競うかの如くボブ・ディラン、ウッディー・ガスリー、
ジュディー・コリンズ等の曲が流れて来る。
交互に先頭後退しながら互いに5匹ほど釣った辺りで
休憩する二人を春の日差しが優しく包む、
時間的にも場所的にも良い状態に入って来た。
「さて、そろそろスピード上げるぞ、良い型釣ろうぜ」

「ここはキャスティングテクニックが要るぞ、俺が右側釣るからおまえは左側だ」
「えー?俺らが難しい方ですか?・・・・ありゃりゃもう釣っちゃってる」
伊藤はさっさと魚を釣って鈴木のキャスティングを指導する
「その岩の上っ面を舐める様にラインを通すと良い型が着く流れにフライを
落とせるからな」
「簡単に言ってくれますねぇ、おっとっと狙いより手前に落ちちゃった、
出た!!」
ちゃっかり二人とも釣っている。
さてこの物語の一番の見せ場のポイントにやって来た二人は去年と違う事に
一抹の不安を感じながらも
「このポイントはお前に譲るから思う存分楽しめ」
時間が時間だけにこの後起こる事態を想像し得ない鈴木は
上機嫌である
「じぁ行かせてもらいます!!」
ポイントの様子は中ほどに大きな沈み石の有る淵で去年との大きな違いは
沈み石の前に木が倒れていて石の前だけ水中に隠れているのだった、
虫も飛びはじめて期待は充分。

「ここは釣れるぞー、昔良いサイズも釣ってるんだ、釣れよー!!」
伊藤は思いっきりプレッシャーを掛けている、そして集中させるために
BGMも止めて
「まずは解ってると思うけど手前からな、釣れよ」
と耳元ででささやいた。
鈴木がキャストを始めると同時に緩やかに風が吹きはじめて飛んでいた
虫が水面に落ちライズも起こる・・・
その時!「ツッテケー」とかすかな声が鈴木の耳に入る
「先輩、変な声出さないで下さいよー」
と振り返っても知らぬふりで
「何も言ってねーよ」
と帰ってくる。
”なんだ空耳か”と小さな声で呟きながらまず一匹普通サイズのアマゴを釣る、
伊藤は地面を這う虫を手に取って
「やっぱりストーンフライか、鈴木、オレンジボディーのEHC#14は無いか?」
と聞くと
「えーー?オレンジですか?#12しか無いです、これって夏パターンじゃないですか??」
「良し!#12で行け!」
すると先ほどよりも大きめの虫が飛び始めた、
「おおお!デカイのがあそこに居ますよ」
との鈴木が指さす方を見ると倒木の前50センチに
明らかに尺クラスのアマゴが泳ぎ始めた、そしてまた風が吹き始め
「絶対食って来る釣れるぞーー」
とさらにしつこくプレッシャーを掛けると大アマゴのライズが始まった、
鈴木がキャストし始めるとまた
「ツッテケーー」「ツッテケーー」と声がする
後ろの伊藤は何事も無い様に見ているが妙な声を聞いている鈴木が
怯えながらもキャストすると流れを予想したティペットは
スラックを保って水面に落ちる、フライラインはそのままで
スラックだけが少しずつ伸びていく途中大アマゴは身を
ひるがえしフライをくわえた
「やったー!!」
大アマゴはダッシュして倒木の下に入る
「ああーー!!」
そして下流に走り水面に出る
「ええー!!」
大アマゴは半沈みの倒木の上を走り反転する
「なんでーー!!」
フライは倒木を一回りしてフックのベンドは見事にティペットをとらえた、
大アマゴはすでに淵の底
「そんなぁぁ」
「おおお!見事!!」
パチパチと手をたたく伊藤に対しうなだれる鈴木、
「誰に拍手してるんですか??」
「もちろん大アマゴにだよ、いやー見事な逃げっぷり」
沈み石の横に行きトップガイドで巧みにフライを外し
「まだ行けますか?」
と未練がましい鈴木の問いに
「次のハッチ&ライズを待とうか」
と答えてしばらく一服、伊藤はハーモニカを取りだし「風に吹かれて」を吹きだした
「良い風が吹いて居るんだけどなあ」
鈴木は先ほどの怪しい声をすっかり忘れている、それほど大アマゴをばらした
ショックが強いのだろう、
「お、虫が飛び始めたぞ、出るぞ出るぞ!」
「良し今度こそ!」
魚もライズ始めキャストにかかる鈴木の背後から
「ツッテケー スズキー」
「あーーー!今度は名前までーーー!何ですかここは??」
「ハッハッハ!今のは俺だよ」
「今のは俺だよって前の二回は??知ってたんですか?」
「そうだなあそろそろ種明かししないと二度と来れないかも
知れないからなぁ」
「はあー?種明かしーー?」
「ここはな”ツッテケ淵”って言ってベテラン餌釣り師の
伝説のポイントなんだ」
「つつっ ツッテケ淵?オイテケ堀ってのは聞くけどツッテケ淵って
しょーもない名前付けたんですねぇ、でもそのまんまじゃん」
「あそこ見てみろ」
と伊藤が指さす斜面の中ほどには

右手の斜面には洞穴が二つ有る、
「詳しい話は聞いてないがこの季節のこの時間帯に聞こえる事があるらしいんだ」
「そう言えば去年は初夏だったから聞こえなかったんですね」
「いやいや、まだまだ他の理由が有るんだ、お前がキャスト
する直前に小さい声で話しかけただろ、先入観とか暗示を
掛けるんだ、そうすると”ツッテケー”って聞こえてしまうんだ、
あの二つの洞穴と風の向きが微妙な音を出すんだろうな」
「じゃあ先輩は聞いた事が無いんですね」
「聞いた事有るよ、師匠から、同じ様にはめられたんだけどな、この伝説は
こうやって伝えていくんだ、お前も何時か誰かをはめてやれ」
「そんな伝え方って有り??」
「もう一つなあ、あの洞穴そのものもどうも怪しい気がするんだ、
源流域の尾根にも洞穴が有ってそこから風が入ってこの穴から
抜けてるんじゃないかと思うんだけど考え過ぎかなぁ・・」
「あーあ、もうちょっとで二度とこの谷へは入れなくなるところでしたよ、
いつか誰かに仕掛けてやろ」
「心配するな一人の時はただ変わった風の音にしか聞こえん、でもなぁ、
今日みたいなあんな大アマゴを見たら一人で釣っていても聞こえるかもなぁ」
「そりゃそうでしょう、大きいアマゴでしたよ」
後輩を見事に陥れた伊藤と大物を逃した鈴木そして完全な逃げの
テクニックを披露した大アマゴを癒す様な風が吹き虫が落ちて
大アマゴが水面から高く舞い上がり最後のライズをした。
「おまえにはマイッタよ、その遺伝子を伝えてくれ俺は伝説を伝える!」
ライズに向かって話す鈴木の言葉に大きくうなずく伊藤が「風に吹かれて」を
吹くと最後の所で鈴木が
「♪答えは風に聞け♪」と唄った。
終わり
このストーリーの中でストーンフライが風に吹かれて
水面に落ちてライズが始まると言う場面は
「炭焼き谷」の大堰堤の下の淵で遭遇しました
4月の昼頃風が吹いて来て虫がバラバラと水面に
落ちると待ってましたとライズが起きるんです
風が吹くたびにライズが起きて三匹ほど釣りましたが
リリースすると一目散に虫が落ちる所に走って
行くんです、ストーンフライは体の中身がぎっしり
詰まっていて重要な餌になる事は本で知ってましたが
それほど夢中になるんですね、よほど美味しいのでしょう、
ストーンフライが風に弱いと言う事も解りました。
大物を掛けてバラした直後に水面下の障害物や
底石にフライが引っ掛かる事って結構有ると思います、
その「してやられた!」をオーバーに書いてみました。
何となくこのドタバタコンビでシリーズ化しそうな
予感が・・・・
今年もやって来ました伊藤


さてどんな釣りになるのかはたまたどんな出来事が
起こるのか「ツッテケ淵の大アマゴ」の始まり始まり!!
今日入る谷は去年と同じ「時忘れの谷」

鈴木の心配顔を見て伊藤は

来年はあっちの谷へ入ろうぜ」
伊藤は本流をはさんで反対側の山を指さして更に話す

”静”だとするとあそこは”動”だな、良いぞー楽しみに
しとけよー」


とスイッチを押して流れて来た曲はボブ・ディランの「風に吹かれて」、

フォークなんですか?」

遅刻ばっかりしてないで時間を大切にしろよ!」

良い谷なんだけどなぁ」
やはり昨年の出来事には相当参っているようだ
この川は中流域から盆地の中を流れていて四月と言えども
時々霜が降りる、さらにその奥の谷へ入るには一枚も
二枚も重ね着が必要となる。


長く細い獣道を下りて竿袋から出したロッドをつなぎ
話を続けながら明るいブラウンカラーに付いたスネークガイドの
フットが透けて見える鈴木のロッドを見て伊藤が言う


ついカーボンロッドの癖が出ちゃうんですよねぇ」
流れは細くプール、深瀬、落ち込み、浅瀬を何度も繰り返しその
瀬音と競うかの如くボブ・ディラン、ウッディー・ガスリー、
ジュディー・コリンズ等の曲が流れて来る。
交互に先頭後退しながら互いに5匹ほど釣った辺りで
休憩する二人を春の日差しが優しく包む、
時間的にも場所的にも良い状態に入って来た。




伊藤はさっさと魚を釣って鈴木のキャスティングを指導する

落とせるからな」

出た!!」
ちゃっかり二人とも釣っている。
さてこの物語の一番の見せ場のポイントにやって来た二人は去年と違う事に
一抹の不安を感じながらも

時間が時間だけにこの後起こる事態を想像し得ない鈴木は
上機嫌である

ポイントの様子は中ほどに大きな沈み石の有る淵で去年との大きな違いは
沈み石の前に木が倒れていて石の前だけ水中に隠れているのだった、
虫も飛びはじめて期待は充分。


伊藤は思いっきりプレッシャーを掛けている、そして集中させるために
BGMも止めて

と耳元ででささやいた。
鈴木がキャストを始めると同時に緩やかに風が吹きはじめて飛んでいた
虫が水面に落ちライズも起こる・・・
その時!「ツッテケー」とかすかな声が鈴木の耳に入る

と振り返っても知らぬふりで

と帰ってくる。
”なんだ空耳か”と小さな声で呟きながらまず一匹普通サイズのアマゴを釣る、
伊藤は地面を這う虫を手に取って

と聞くと


すると先ほどよりも大きめの虫が飛び始めた、

との鈴木が指さす方を見ると倒木の前50センチに
明らかに尺クラスのアマゴが泳ぎ始めた、そしてまた風が吹き始め

とさらにしつこくプレッシャーを掛けると大アマゴのライズが始まった、
鈴木がキャストし始めるとまた
「ツッテケーー」「ツッテケーー」と声がする
後ろの伊藤は何事も無い様に見ているが妙な声を聞いている鈴木が
怯えながらもキャストすると流れを予想したティペットは
スラックを保って水面に落ちる、フライラインはそのままで
スラックだけが少しずつ伸びていく途中大アマゴは身を
ひるがえしフライをくわえた

大アマゴはダッシュして倒木の下に入る

そして下流に走り水面に出る

大アマゴは半沈みの倒木の上を走り反転する

フライは倒木を一回りしてフックのベンドは見事にティペットをとらえた、
大アマゴはすでに淵の底


パチパチと手をたたく伊藤に対しうなだれる鈴木、


沈み石の横に行きトップガイドで巧みにフライを外し

と未練がましい鈴木の問いに

と答えてしばらく一服、伊藤はハーモニカを取りだし「風に吹かれて」を吹きだした

鈴木は先ほどの怪しい声をすっかり忘れている、それほど大アマゴをばらした
ショックが強いのだろう、


魚もライズ始めキャストにかかる鈴木の背後から
「ツッテケー スズキー」




知れないからなぁ」


伝説のポイントなんだ」

しょーもない名前付けたんですねぇ、でもそのまんまじゃん」

と伊藤が指さす斜面の中ほどには

右手の斜面には洞穴が二つ有る、



する直前に小さい声で話しかけただろ、先入観とか暗示を
掛けるんだ、そうすると”ツッテケー”って聞こえてしまうんだ、
あの二つの洞穴と風の向きが微妙な音を出すんだろうな」


こうやって伝えていくんだ、お前も何時か誰かをはめてやれ」


源流域の尾根にも洞穴が有ってそこから風が入ってこの穴から
抜けてるんじゃないかと思うんだけど考え過ぎかなぁ・・」

いつか誰かに仕掛けてやろ」

今日みたいなあんな大アマゴを見たら一人で釣っていても聞こえるかもなぁ」

後輩を見事に陥れた伊藤と大物を逃した鈴木そして完全な逃げの
テクニックを披露した大アマゴを癒す様な風が吹き虫が落ちて
大アマゴが水面から高く舞い上がり最後のライズをした。

ライズに向かって話す鈴木の言葉に大きくうなずく伊藤が「風に吹かれて」を
吹くと最後の所で鈴木が
「♪答えは風に聞け♪」と唄った。
終わり
このストーリーの中でストーンフライが風に吹かれて
水面に落ちてライズが始まると言う場面は
「炭焼き谷」の大堰堤の下の淵で遭遇しました
4月の昼頃風が吹いて来て虫がバラバラと水面に
落ちると待ってましたとライズが起きるんです
風が吹くたびにライズが起きて三匹ほど釣りましたが
リリースすると一目散に虫が落ちる所に走って
行くんです、ストーンフライは体の中身がぎっしり
詰まっていて重要な餌になる事は本で知ってましたが
それほど夢中になるんですね、よほど美味しいのでしょう、
ストーンフライが風に弱いと言う事も解りました。
大物を掛けてバラした直後に水面下の障害物や
底石にフライが引っ掛かる事って結構有ると思います、
その「してやられた!」をオーバーに書いてみました。
何となくこのドタバタコンビでシリーズ化しそうな
予感が・・・・

2010年04月23日
アマゴの模様
アマゴの模様には四つのパーツが有ると考えてます、
パーマーク、腹部の黒点、背中の黒点、朱点です。
私が良く行く川のある谷ではそれぞれのパーツが無かったり
薄かったり数が少なかったり色んなパターンのアマゴが
棲んでますがここで少しまとめてみようと思います。
この谷での数回の釣りでの50匹ほどのアマゴから
それぞれのパターンの画像を出しますが証明に
なる様な画像ではなくあくまでも参考程度です。

標準型

腹部の黒点の無いタイプ

朱点が極少ないタイプ

背中の黒点が極少ないタイプ朱点も僅か、
背中の黒点だけは薄くなる事はなく数の変化だけです。
もしもこの四つのタイプが規則的に順番に現れるならば
イワメタイプのアマゴが出る様な気がしますが、
以上の4タイプはランダムに現れてそれぞれの模様パーツが
少なかったり薄かったりします。

背中の黒点と朱点はさらに少なく模様も薄め、
ブラウンバックと呼びたいタイプ

さらにパーマーク以外はほとんど無いタイプ、
今のところこのタイプが一番数が少ないタイプです。
全国の数か所で生息しているイワメが「突然変異定着型」
とするならばもしこの谷でイワメタイプが出たら
「模様退化型」となり模様パーツが規則的に退化するならば
「規則的退化型」となり大発見かと思いますがまったく
不規則なので少し残念です。
気付いた事が一つ有ります、動物で何かが退化すると
言う事は「いらない物」と判断しての事と思います、
黒点や朱点は退化してもまだパーマークだけは
残っているのは自然の谷で外敵から身を護る最後の
外観的手段が「パーマーク」であると言う事で
イワメタイプが現れる可能性はかなり少ないと
思います。
他の谷では

ネイティブかどうかは解りませんが黒点が多く綺麗な派手タイプ
また他の谷では

イワメタイプです。(二匹目)
結局この水系ではすべてのタイプのアマゴが棲んでいる事に
なります、恐るべし。
予告
短編小説第三作執筆中
タイトル「ツッテケ淵の大アマゴ」
パーマーク、腹部の黒点、背中の黒点、朱点です。
私が良く行く川のある谷ではそれぞれのパーツが無かったり
薄かったり数が少なかったり色んなパターンのアマゴが
棲んでますがここで少しまとめてみようと思います。
この谷での数回の釣りでの50匹ほどのアマゴから
それぞれのパターンの画像を出しますが証明に
なる様な画像ではなくあくまでも参考程度です。

標準型

腹部の黒点の無いタイプ

朱点が極少ないタイプ

背中の黒点が極少ないタイプ朱点も僅か、
背中の黒点だけは薄くなる事はなく数の変化だけです。
もしもこの四つのタイプが規則的に順番に現れるならば
イワメタイプのアマゴが出る様な気がしますが、
以上の4タイプはランダムに現れてそれぞれの模様パーツが
少なかったり薄かったりします。

背中の黒点と朱点はさらに少なく模様も薄め、
ブラウンバックと呼びたいタイプ

さらにパーマーク以外はほとんど無いタイプ、
今のところこのタイプが一番数が少ないタイプです。
全国の数か所で生息しているイワメが「突然変異定着型」
とするならばもしこの谷でイワメタイプが出たら
「模様退化型」となり模様パーツが規則的に退化するならば
「規則的退化型」となり大発見かと思いますがまったく
不規則なので少し残念です。
気付いた事が一つ有ります、動物で何かが退化すると
言う事は「いらない物」と判断しての事と思います、
黒点や朱点は退化してもまだパーマークだけは
残っているのは自然の谷で外敵から身を護る最後の
外観的手段が「パーマーク」であると言う事で
イワメタイプが現れる可能性はかなり少ないと
思います。
他の谷では

ネイティブかどうかは解りませんが黒点が多く綺麗な派手タイプ
また他の谷では

イワメタイプです。(二匹目)
結局この水系ではすべてのタイプのアマゴが棲んでいる事に
なります、恐るべし。
予告
短編小説第三作執筆中
タイトル「ツッテケ淵の大アマゴ」

2008年07月06日
「笛吹き銀治」短編ミステリー

この谷の源流は石灰質の地質で所々に穴が有りその穴に関して麓の
集落にはいくつか伝説が有る、さてこれからのお話はどんな伝説かな?
人一人がやっと通れるほどの細道を下りるとすぐに谷の流れが見えてくる。
遠くでは鹿が何度も鳴いている、熊除けの鈴を鳴らしていなければ
すぐ近くで鹿を見る事が出来るのに万が一の熊を避けるために
多くの鹿を散らすとは何と皮肉な事か・・・
「先輩!帰りもこの道登るんですよねえ、きついなあ」フライフィッシングを
始めて二年目の鈴木だがこの谷に入るのは初めてでしかも野営道具も担いでいる、
「ははは、昔ここに田んぼがあってなあその米俵を担いでさっきの道を
登った人がいたんだぞ、それに比べりゃこれくらい・・・」と伊藤は少し
ぬかるんだ地面を指さして言った。
谷に降りた所で地元の山菜採りらしき爺さんがやって来て挨拶を交わす
「こんにちわ!」と二人そろって挨拶すると爺さんはにこやかに頭を下げて
「おお?山泊か?明日も良く釣れるぞ、お!今夜は出るかもしれんなあ」
ここ数年この山系にも”熊出没注意”の看板が増えて二人は熊の事だと思い
「気をつけます!どうも!」と明るく返事をした、
爺さんの腰にはキセルを入れる様な筒が下がっていて
足取りも軽く森に消えていった。
「さて、夕方までには良型を4匹釣ろうぜ、さもなければレトルトカレーだぞ!」
「了解しました先輩!」
「元気は良いが明日の帰りに泣き言言うなよ!」
小さいアマゴは数匹出るが良いサイズはなかなか、この谷の良型は
大岩の周辺に絡んでいる場合が多く大岩で出来た流れとたるみの
境で食べ頃を二匹、もう一つのポイントは大岩の上50センチに枝が
垂れ下がっている、
「先輩、ここは任せます」
「俺だって難しいよ・・やってみるか」
サイドキャストで岩と枝の間にラインを通し岩の左を流すとゆっくり出て
フライをくわえた
「ヨーーシあと一匹だぞ、次のポイントはS字だ」
陽が傾いてきて昼間よりも更にフライが見にくい「S字ポイント」
「ここの攻め方は出来るだけ流れが無くて魚に近い場所に落とす、行け!」
「先輩!何も見えませんけど・・・」
と言っているうちに水面に波紋が出た、すかさず鈴木の肩をたたく
「ヨシ!」の伊藤の合図に反応して竿を立てた「来ました!良型です!」
この谷では最大級の25センチだった。
何とか食べ頃サイズのアマゴを4匹キープして野営の準備に掛かった、
この谷だけではないが炭焼きの釜跡は二つ並んでいる事が良くあり中は
石も少なく平らな場合が多いので野営にはもってこいだ、
二つとも草が生い茂っているので火を焚くのは釜跡の入り口にして大きな跡の
方にテントを張る事にした、飯盒で米を炊き遠火でアマゴを4匹焼く、
飯の準備は鈴木に任せてテントの準備をしていると
「何だこれ!こんなもん持って来たのか??そりゃあ重いわ」
それはオートハープだった、カントリーミュージックでは良く使われた
楽器で一度に沢山の弦を弾きコードボタンを押しながら弾くと歌に
合わせてコードが弾ける楽器である、
「親父にもらったんですよ、そのおかげで僕もカントリーファンに
なっちゃったんです」
「そうか鈴木は神戸出身だったよなあ関西はカントリーやブルーグラス
が盛んだもんなあ・・・あ!忘れてた今晩は麓のバンガローでブルー
グラスフェスティバルだった!、でもここまでは聞こえないだろうなあ」
アマゴ2匹ずつと漬け物と飯これで十分満足の夕食を終えて
早速ミュージック、オートハープと言えばカーターファミリーだ
「ワイルド・ウッド・フラワー」「キープ・オン・ザ・サニー・サイド」
などインストゥルメンタルに向いた曲をハーモニカと合わせて弾いたりして
楽しみ最後に伊藤のハーモニカ「故郷」で締めくくる
「長野オリンピックの時に杏里がこの歌を唄ってたんだよなあ、泣けて
くる唄って有るよなあ・・・・」
「先輩、爺さんが”今夜は出る”って言ってたけど何がでるんですか?」
「何だよせっかく音楽に浸ってるのに・・・何が出るか?ってか?ヒルに
は早いしなあ、マムシはまず逃げるだろうし熊かな?、さてテントに入るぞ」
伊藤はまずテントの下の部分にヒル除けスプレーを吹き掛け木の枝に
風鈴をぶら下げた、
「風が無かったらどうするんですか?」
「そこまでは考えてないなあ、開き直るしか無え」
時々吹く風に風鈴がなりその音に同調するかの様に微かに音楽が聞こ
えてくる、バンジョーの金属音が一番音が通りやすくアール・スクラッグス
の曲の「フォギーマウンテンブレイクダウン」が良い子守歌になる頃鈴木が
オロオロしながら伊藤をゆする、
「せ、せ先輩!何か青白い物が動いてますけど・・・」
ほとんど腰抜け状態で声もうわずっている
「落ち着け!ここまで来てるのならもうジタバタしてもしょうがない、
どれどれ?火の玉みたいな物かな?」
この谷のこの時間では何とも動き様がない、青白い物は谷を下りていく、
つまり音楽が鳴っている方向でどうやら爺さんが言っていた”出る”
ってのはこれだったのか二人にはそんな事を考える余裕はなかった、
青白い火の玉の様な物はやがて通り過ぎて行き鈴木はやや落ち
着いたが寝付きの悪い伊藤は酒を一合ばかり煽って寝袋に入った、
音楽はすこし音量を増し盛り上がっている様子も僅かに解る。
朝目を覚ますと鈴木はすでに起きている、冷たい谷の水で顔を
洗うと一気に目が覚めて夕べのうちに丸めておいたにぎりめしを
ほおばり釣りの準備にかかる、貴重品以外の荷物を釜跡の中に
置いていく。
「先輩、夕べは怖かったですよぉ、先輩はさすがですねえ」
「俺だって半分腰抜け状態だったけどな、二人でびびってる
わけにいかんからやせ我慢してたんだ」
「明るいうちは出ませんよねえ」
「当たり前だ!」
そんな会話をしながら釣り上がりながらも鈴木は周りをキョロキョロ
して恐怖心を隠せない様子、しかし、谷が狭くなり斜面から小石が
コロコロ落ちてくるとまた恐怖心がピークに達した、
「先輩!!何かガサガサ音がします、小石も・・・・!」
「アナグマだ心配ない!」と伊藤が答える、
アナグマは二人の存在を知りながら無視をする様に夢中で落ち葉を
鼻で掻き分けながら餌を探していた、「なーんだアナグマかぁ」
鈴木もどうやら落ち着いたようだ。
流れの脇には獣の骨がいたる所に落ちていて中には一頭分丸ごとの白骨も有る。
夕べの事はすっかり忘れた様に二人は釣りに夢中になり
釣ってはリリースを繰り返す、流れを横切る様に垂れ下がった
ツルの直前で悠々と泳ぐ8寸ほどのアマゴには苦心の
末に掛ける事が出来たがツルに絡まれてばれた、
「賢い魚も居るんだよなあ」伊藤の嘆きを遮る様に
「先輩!大物が居ますよ!」と鈴木が興奮気味で言う
何段か続く落ち込みの一番大きな落ち込みの真ん中で
尺近いアマゴが水面まで餌を捕りに来る、流れは緩く
水面はほとんど鏡の様だ、
「うーーんこれは手強いぞ一発勝負しか無い、うーーん、良しこれを結べ」
と伊藤が手渡したフライは「ノーハックルダンイエロー」の#18
「先輩、こんな地味な色のフライ見えませんけど・・」
「岩の上にラインを置いて目線を低くすれば見える」
とアドバイスをした、鈴木は言われた様に少し後ずさりして
キャストしラインを岩の上に乗せて背を低くして目線を
下げてフライを見た、アマゴはゆっくり上がって来て口を開けた、
その大きな口に吸い込まれる様にフライは消えた、
波紋はほとんど出来なかった「ヨシ!!」
伊藤の合図に敏感に反応した鈴木の腕がロッドを立てると
カーボンの#3ロッドが大きく曲がる、4月の源流の
アマゴはまだ体力が回復していないらしく思いの他
早く水面に上がってきてランディングネットに収まった、
「あーー!惜しい29センチ!」伊藤の声は惜しいと
聞こえるが半分は「ざまあ見ろ」にも聞こえる、
「まあこの谷では”主”のレベルだな」と鈴木を慰めた
「いやあ2年目でこんな良い型釣れるなんて思って
無かったですよ有り難うございます先輩!」
谷はまだまだ奥深く続き20センチ前後のアマゴも
時々釣れる、ふと東の斜面を見ると10メートルほど
上に洞穴が有る「先輩!あんな所に穴が有りますよ!」
「この辺りは石灰質だから穴が有ってもおかしくないんだ
尾根近くにももう一つ穴が有るはずだが・・入ってみるか?」
「いやですよぉ」
鈴木は夕べの事が少しよみがえって来たが何とか落ち着きを
取り戻した。
谷が二股に別れている、そろそろ終盤だ、まずは
左の本流から上がるとイワナが出ても不思議ではない
流れになる、しかし出るのはアマゴばかり、
「やっぱりイワナは滝の上かなあ」伊藤は以前
地元の釣り師に聞いた事を思い出したが滝の
上は藪が厳しいらしくフライには向かないそうだ。
二人は滝の下で釣りを終えた。
「さーて、帰るぞ!」伊藤の号令で二人は荷物が置いてある
釜跡に向けて歩き出した、音色の違う二つの熊除けの
鈴がしばらく鳴り続け鳥や獣たちの声を遠くに聞きながら
一時間を要して荷物が待っている釜跡に着いた。
荷物が無事かどうか確かめる、
「別に取られた物なんて無いよなあ?」
「先輩、何か軽いんですけど・・・あ!米はみんな食ったんだ」
更に谷を下る事三十分最後の登りにさしかかると更に
ザックが軽く感じる様になった、
「僕の方が若いんですから・・・」
と後ろから支えられていると勘違いした鈴木が振り返ったが
「お前何言ってんだ?」
二人は3メートルほど離れているので支えるはずがない
「余りにザックが軽く感じたんで・・・おかしいなあ」
「釣りが楽しかったから荷物も軽いんだろ」
とあしらう伊藤も荷物の軽さを感じているのだった。
登り続けた15分間はあっという間に過ぎて笹の
小道の先に車が見えて来た、
「良ーーし、着いたぞ!!良い谷だろう鈴木!」
「はい!また釣りに来たいです、でも、日帰りで願いますよ!」
「そうだなあ夜はちょっとなあ、他にも良い谷が有るからな」
車を停めた脇に小屋が有りその階段にザックを下ろし腰掛けた
二人は何時のまにか疲れで眠ってしまい昨日の老人に
声を掛けられて目を覚ました。
「よぅ!若い衆 釣れたかい?」
のぞき込む様に爺さんが声を掛けると
「あ!こんにちわ 良く釣れましたもうちょっとで尺だったんですが・・・」
含みがちに答える鈴木の言葉を補うように伊藤も答える
「こんにちわ 何度来ても良い谷ですねえ、でも夕べ出たんですよ
幽霊って言うのか火の玉って言うか・・・」
「そうじゃろうのう、夕べは野外音楽会も有った事だし・・・・」
含み笑いで言う爺さんの言葉に間髪を入れず伊藤が言う
「え?!ブルーグラスフェスティバルと幽霊と何か関係が?・・
”今夜は出る”って熊じゃなかったんですか?」
「ハッハッハ!やっぱり出たか、実はなこの谷には伝説が
有るんじゃがこの伝説を話しておかないとあんたらあは
二度と来んかも知れんしなあ・・・」
鈴木は夕べの恐怖の顔に戻って伊藤もやや緊張気味だ
老人は話を続けた、
「昔、”笛吹き銀治”と言う炭焼き人が居って南の銀鉱山から
流れて来たそうじゃ、銀冶は手先も器用で銀の精錬の仕事の
傍ら銀細工や火を使う手作業が得意じゃった、そのおかげも
有ってこの地に来てもすぐに炭焼きを覚えたのじゃ、銀冶は
この地にやって来て村祭りに顔を出すようになって笛を吹く
様になったんじゃ、器用な銀冶が笛まで作り始めたのは
何の不思議も無かった、それがまた音も細工も職人勝りで
村人の吹く笛はほとんど銀冶の作った笛に替わっていった
そうじゃ、中でも銀冶が自分に作った笛は炭焼き仕事の
邪魔にならぬ様に小さく作って仕事の合間に吹いておった、
音は高く澄んで谷中に響き渡りまるで鹿の鳴き声に似て
それを聞いた者達は”銀冶の鹿笛”と例えていたそうじゃ」
目を輝かせて聞いていた鈴木は
「へえー日本人は昔から器用だったんですねえ、先輩の
ノーハックル・ダンもかなり難しそう!」
「バカ野郎フライなんてなぁ自然に流せば釣れるんだよぅ」
二人の会話をたしなめる様に爺さんの話は続いた
「ほほー毛ばりを自分で巻くとは楽しかろうのう、でな、
ある年銀冶が山仕事に出たっきり姿を消してしまったんじゃ
一月ほど探すと尾根道から外れた所に銀冶の笛が落ちて
おってその近くには縦穴の洞穴が有ったんじゃ、落とした笛を
探しとったんじゃろうなあ、しばらく他の笛の達人が供養の
ために”銀冶の鹿笛”を吹いてはみたがあの綺麗な澄んだ
音色は出なかったそうじゃ、何年かすぎた村祭りの夜盛り上がった
祭囃子に混じって独特の澄んだ笛の音が聞こえてきて皆が
『あーー!銀冶が帰って来た!!』と喜んだんじゃ、それはもう
いつになく祭りは盛大に賑わったそうじゃ、その夜祭りの後かたづけ
をする者達は『祭りが楽しいと後片づけも楽だなあ』と口々に言ったそうな」
すると伊藤が思いだした様に
「え!もしかするとザックが軽く思えたのは・・・・」
爺さんは続けた
「そうじゃよ、銀治は笛を落としたまま世を去った事で成仏出来んかった
んじゃろうなあ、それで祭り囃子や野外音楽を聴かせてくれた者達に
お礼替わりに後かたづけを後押ししたんじゃゃろうのう」
まだ少し納得出来ない鈴木がこう言った
「しかし軽過ぎましたよ、半分くらいだった様な・・・」
「もしかするとあんた達も祭り囃子でも??」
「はい、二人で楽器を弾いてました、でも幽霊は一つじゃあなかったですよ」
「そうかねぇあんた達も楽器を弾いて楽しんだんか?それは
良い事じゃ、どうやら”笛吹き銀冶”にも仲間が居るようじゃなあ
そうかそうか・・これからも銀冶達に音楽を聴かせてやってくれ
但し、仲間入りだけはせん様にな」
爺さんは満足そうな笑みを浮かべて話を終えた。
話を終えた爺さんは
「また釣りに来てくれや」と言って古い山道の方へ歩いていく
「楽しい話を有り難うございました、また来ます」
と二人が頭を下げて見送ると腰に付けた竹の筒の
飾り文字が春の陽に反射して浮かび上がり
「銀」の字が後光が差した様にはっきり見えた
「もしかするとあれは笛の入れ物?まさか」
伊藤はつぶやきながらザックを持ち上げた、
すると・・・・・・・
二人は顔を見合わせてこう言った
「う!!重い、”笛吹き銀冶”の爺さん??」
二人は本来のザックの重さを感じて笑った
もちろんその笑顔には恐怖心の欠片も無かった。
終わり
さてこの物語の舞台は「時忘れの谷」ですが
尾根道の穴と斜面の穴は実在します、さらに
尾根道の穴には伝説がいくつか有るそうです
気になるのは穴に女郎が住んでいたと言う
伝説でその女郎が7月15日に谷に遊びに
来てその姿を見ると祟りが有るそうです
7月15日と言えば梅雨明け頃でしょうか
旧暦にしてもヒルが多い時期です
女郎はヒルの化身なんでしょうか?
この時期はヒルが多いから注意する事
って言ってる様にも感じます
もう一つ、この谷で米作りをした人が
居た事も事実らしいです。
最後に普段小説などまず読まないので
句読点や改行は適切では無いと思いますが
ご了承下さい。

2008年06月08日
「炭焼き谷物語」

「炭焼き谷物語」
戦いが歴史を変えるのは良くある事です、戦いが文明や文化を
変える事もしばしば有り、第一次世界大戦では飛行機が発達し
第二次世界大戦ではロケットが誕生しました。
美濃の国に一つ小さな村が有りました、この村が大きく変わったのは
ひょっとすると歴史的な大きな戦いだったのかも知れません。
美濃と近江の国境辺りで日本最大の天下を左右する戦いが起こり
勝敗が決まりかけたある日西軍に付いていた南国の武将が
事も有ろうに敵前逃亡を敢行した、秋雨が降りしきる山道を
追っ手から逃れて小さな集落にさしかかった頃、
足軽頭が大将にこう言った
「親方様!足軽数十人が疲れ切っております、刀傷の他にも
大量の出血が見られます」
数百の軍勢の最後尾の足軽には戦いの傷とは思えない
幾つもの出血が有った、9月の雨にはヒルが出るのは必至で
最後尾の足軽は被害甚大であった。
「追っ手は近いか?」と武将は軍師に聞く
「ここまで来れば大丈夫かと存じます、もう半里も行けば名もない
小さな集落が有ります」そう答える軍師の足にもにじむ血は一筋や
二筋では無かった、
「そうか、では先回りして偵察して敵方でなければ軍勢を一晩休ませよう」。
集落は40戸ほどで谷沿いの細い道に寄り添い麓の村からは
孤立している、ヒルの攻撃は更に激しく戦いの疲れ、刀傷の
出血さらにはヒルの出血に見舞われ倒れる者まで出てきた。
疲労困憊で集落に着いたのはもう夕暮れ、
「長老どの、一晩厄介になる」「こんな小さな村によくぞお寄り
下さいました何もございませんが・・・おい、生け簀の魚を
皆さんに」と振り返り村の衆に指図した、軍勢はそれぞれの
民家に上がり休憩をしながら焼き魚やにぎりめしをほおばった。
朝捕ったアマゴを囲炉裏端で焼き数日生け簀に入れてあった
鱒を刺身で振る舞った、ワサビは集落の周りにいくらでも自生している、
「この魚は何と言う魚か?」海の魚を食べなれた武将には
大きさが物足りない様子だが炭火で焼かれた魚が不味いはずがない
「この魚はアマゴともうしまして刺身の魚はそのアマゴが
海から戻った姿でございます」
「ほう、こんな山の魚が海へ下ってまた戻って来るのか?
初めて聞く話じゃのう・・・しかし・・美味い」
新鮮なワサビの効きに絶句しながらの会話であった。
「ところでこの村は東軍の陣内では無いのか?」
「いえいえ、戦場はもっと向こうです」と北を指さして
「戦場に在らずは敵国に在らず」と付け加え更に
「小さな村での困り事はお互い様です。」と続けた、
「すまぬ」武将は深く頭を下げた。
しばらく談笑をして武将はこう言った、
「夜更けに追っ手が来ては村に迷惑が掛かる
何処かに隠れ場所は無いか?」
「どうしてもと言われるのならば谷に入って
山仕事の小屋に隠れるのが良いかと存じます、
ここまで来る追っ手ならばすでにヒルの餌食に
なっているはずです、ましてや敵が南国の軍勢ならば
怯えて一目散に山越えをしたと思うはずです、谷に
は塩を大量に持って行ってくだされ」
と長老は塩を一俵持って来るように村の衆に命じた。
「すまぬがもう一つ、戦いで倒れた者をしばらく
この村で養生させてやってくれぬか?迷惑ならば
遠慮無く言ってくれ」武将はまたしても頭を低くした
「いえいえ、迷惑などと・・戦に若い衆を取られて
山仕事の人手が少なくなっていたところです
この戦もそろそろ終わってもらわないと・・・
しかし戻って来ぬ衆もかなりの数になりそうで
ございます、追っ手が乗り込んで来れば流行病とか
疫病でごまかしますのでご安心を」
「まったくもってすまぬ、この恩は必ず!」
動けぬ兵を集落に残し軍勢は谷へ入った、
持ってきた塩で小屋を囲いヒルの進入を防ぎ
更に着ている物に軽く塩を塗り込み疲れ切った
体を休めた。
翌朝雨は上がったが木の葉からは滴が
何度も落ちてくる、長老はすでに武将の
小屋の外で一服していた、
起きてきた武将が「長老どの追っ手はどうじゃった?」
と聞くと「村の娘達に夫婦の振りをさせて疫病の
看病らしく見せて伝染すると言ったらそそくさと
退散しました」
「見事な長老どのの機転じゃのう、わしも退散するぞ」
「小屋の周りの塩をまたかき集めて一人ずつ袋に入れて
持っていってください、時々着物を濡らして塩を塗り込んで
ヒルの被害を少なくしてください」
「いやあ本当に恩にきる、一生忘れぬ、それにしても良い
森じゃのう、山仕事も楽しかろう」
「御意にございます、山仕事は厳しいですがその厳しさ故の
楽しさも山や谷が教えてくれます・・・ではお気をつけて!」
ついに南国の武将は追っ手から逃れて大阪までたどり着き
船で帰った。
時代を揺るがした大きな戦いは終わり
すぐさま恩返しに大量の塩と米を谷間の小さな村に
送った、村に残った兵は元気になり山仕事の手伝いを
始め村の娘と夫婦になる者も数人居た。
その秋送ってきた塩で鱒を漬けてそれをお礼にした。
「親方さま!美濃の村から鱒が届きましたワサビと炭も
一緒です、さっそく頂きましょう」
地元の鯛の刺身と美濃の鱒の塩漬けに舌鼓を打ち
殿の心にはは思わずあの一夜が蘇り
「あの一夜が無ければ・・・」か細い声でささやく
殿の目からは滴が一滴、
「殿、何か悲しいことでも・・・」
「馬鹿者!ワサビが目にしみたのじゃ!、お主こそ!」
「いやあ、良いワサビは人の心にも効きますなあ」
「あの村は今頃どんな様子かのぉ、飢饉で苦しんで
いなければ良いが・・・そうじゃ谷間の痩せた畑でも
出来る野菜の苗を送ってやれ」
「ははあ、サツマイモが良いと思われます、来年送りましょう」
その後も村からは春の山菜、秋の山菜、炭、ワサビ、鱒等
南国の殿の楽しみにもなりました。
残った兵も村に馴染み山仕事にせいを出していましたが
炭を焼く技術も身に付けてきた頃南国の殿と親しい
殿から「良い炭が在るとの話を聞いたのでこちらにも
是非送って頂きたい」との依頼が来た、足軽から
炭焼き人に転職した者達は目を輝かせながら
炭焼きにせいを出した、手と言わず顔と言わず真っ黒に
なり笑顔で炭を焼いた、美濃の小さな村の炭は
みるみる内に評判を呼び谷のあちらこちらに煙が
上がって村は活気に溢れてきた、
ついにこの村は炭焼きだけで生計を立てられる様に
なりました。
「村への恩」
「殿への恩」
それぞれの恩が実を結んだお話でした。
このストーリーを書く上で題材にしたのは関ヶ原の戦いの
時に南国の武将が敵前逃亡を敢行し一目散に集落の
前の道を通り過ぎて山越えした事ですが
逃亡を開始したとき総勢千五百人で無事に帰ったのは
僅か八十人だったそうです、
帰れなかった兵士達がすべて死んだとは
思えず何処かに隠れたり村に匿ってもらったり
したのではないかと想像します(妄想)
この逃亡の一件でこの南国の藩は幕末まで幕府に
一目を置かれるほどの藩になりました。
一方の炭焼き集落は関ヶ原の戦いの10年ほど
後から本格的に炭焼き産業の地となり
東北へも出荷するほどの有名な産地となり
現在に至っています、面白い事に
炭焼きの釜跡の数と最盛期の集落の
戸数が近いです、無理な量産はしなかった
のかも知れません。
サツマイモは江戸中期以降に移入されたため
ストーリー上での妄想です。
以上、駄作の短編でした(長編なんか書けるのか??)
追記(2020.0609)
最近ネットで見た情報では
炭焼き集落を西へ峠を越えて数キロ行った所に
結構大きな集落が有って明治時代には旅館や郵便局や
学校も有ったそうです、
島津の軍勢はそこで休憩したそうです、
とにかく峠を越えて違う国(古い時代の)へ
行きたかったのでしょう。
おいかわ
2008年04月10日
特殊斑紋渓魚に対しての私の考え
佐藤誠次さんの著書「瀬戸際の渓魚たち」の中の
様々な魚のうちで私が気になっているのは
「ナガレモンイワナ」、「ムハンイワナ」、「イワメ」
の3種です。
この3種類の魚のキーワードはパーマーク、
パーマークが乱れて流れている様に見えるイワナを
「ナガレモンイワナ」と呼びすべての模様の無いイワナを
「ムハンイワナ」と呼びます。
パーマークの乱れ方は様々で2種類のイワナはそれほど
遠くない川で見付かっています、そこで私が発想した事は
パーマークの乱れが進んで「ムハンイワナ」になったのではないか?
誰でも考えそうな発想ですが私がもっと気になるのは
アマゴやヤマメのパターンです。
アマゴやヤマメの場合では「イワメ」と言うパーマーク消失の
魚が存在します、パーマークどころか朱点も黒点の有りません
しかし「ナガレモンアマゴ」と言うべきアマゴは見たことも聞いた
事も有りません、その替わりに妙に模様の薄いアマゴは数匹
釣った事が有ります、鰭が黄色く下がオレンジ色だったので
銀化では無いはず、そのアマゴを釣った谷は「イワメ」が棲んでいる
隣の谷です、その頃から急に「特殊斑紋渓魚」の存在が気になり
始めました。
そんなことを考えながら谷を巡っているととある山系で朱点と黒点
が極端に少ない(一個か二個)アマゴが釣れました、振り返ってみると
初めてその谷に入った時にも同じタイプのアマゴを釣っていました。
「へー、この谷にはこんなアマゴがいるんだ」その山系の他の谷を
しばらく探っていると背中に黒点の無いアマゴが釣れて他の
釣り人からも「私もその谷でそんなアマゴを釣ったよ」と報告が
有りました。
いくつかの文献を読んだところ「イワメ」は突然変異が遺伝子として
継続しているアマゴやヤマメの亜種とされ日本で数カ所の谷で
そう呼ばれる事になってますが他の川でも突然変異で出ているようです。
ちょっと待てよ・・・いきなり何にも模様無しの魚なんだろうか??
「ナガレモンイワナ」に対するアマゴのパターンは?
何時か釣った模様の薄いアマゴか?「薄斑アマゴ」??
「そうか!!!」
イワナはパーマークが流れ流れて無くなっていき
アマゴは薄くなっていって「イワメ」になるのではないか??
アマゴやヤマメは劣性遺伝で突然変異が遺伝子に残り難い
そうだが徐々に変化していく進化(退化?)と考えれば
納得出来るかも?突然変異も確かに有るだろう。
背中に黒点の無いアマゴが棲む山系の場合は模様のパーツ
が一つずつ消滅していく退化と言う事になりこの山系で
「イワメ」タイプが複数出ればかなり説得力ありですがどうかなあ?
しかしこれはあくまでも私の勝手で独断的な発想で
ある事をご了承下さい。
ただ一つ確実に言える事はそう言った進化や退化のスピード
よりも環境の変化による渓魚の減少の方が圧倒的に速い!。
と言う訳で「イワメ」はアマゴやヤマメの退化型と考えて
釣りのライフワークとして今後も釣りを楽しもうと思います。
以上、妄想フライフィッシャーのおいかわでした。
様々な魚のうちで私が気になっているのは
「ナガレモンイワナ」、「ムハンイワナ」、「イワメ」
の3種です。
この3種類の魚のキーワードはパーマーク、
パーマークが乱れて流れている様に見えるイワナを
「ナガレモンイワナ」と呼びすべての模様の無いイワナを
「ムハンイワナ」と呼びます。
パーマークの乱れ方は様々で2種類のイワナはそれほど
遠くない川で見付かっています、そこで私が発想した事は
パーマークの乱れが進んで「ムハンイワナ」になったのではないか?
誰でも考えそうな発想ですが私がもっと気になるのは
アマゴやヤマメのパターンです。
アマゴやヤマメの場合では「イワメ」と言うパーマーク消失の
魚が存在します、パーマークどころか朱点も黒点の有りません
しかし「ナガレモンアマゴ」と言うべきアマゴは見たことも聞いた
事も有りません、その替わりに妙に模様の薄いアマゴは数匹
釣った事が有ります、鰭が黄色く下がオレンジ色だったので
銀化では無いはず、そのアマゴを釣った谷は「イワメ」が棲んでいる
隣の谷です、その頃から急に「特殊斑紋渓魚」の存在が気になり
始めました。
そんなことを考えながら谷を巡っているととある山系で朱点と黒点
が極端に少ない(一個か二個)アマゴが釣れました、振り返ってみると
初めてその谷に入った時にも同じタイプのアマゴを釣っていました。
「へー、この谷にはこんなアマゴがいるんだ」その山系の他の谷を
しばらく探っていると背中に黒点の無いアマゴが釣れて他の
釣り人からも「私もその谷でそんなアマゴを釣ったよ」と報告が
有りました。
いくつかの文献を読んだところ「イワメ」は突然変異が遺伝子として
継続しているアマゴやヤマメの亜種とされ日本で数カ所の谷で
そう呼ばれる事になってますが他の川でも突然変異で出ているようです。
ちょっと待てよ・・・いきなり何にも模様無しの魚なんだろうか??
「ナガレモンイワナ」に対するアマゴのパターンは?
何時か釣った模様の薄いアマゴか?「薄斑アマゴ」??
「そうか!!!」
イワナはパーマークが流れ流れて無くなっていき
アマゴは薄くなっていって「イワメ」になるのではないか??
アマゴやヤマメは劣性遺伝で突然変異が遺伝子に残り難い
そうだが徐々に変化していく進化(退化?)と考えれば
納得出来るかも?突然変異も確かに有るだろう。
背中に黒点の無いアマゴが棲む山系の場合は模様のパーツ
が一つずつ消滅していく退化と言う事になりこの山系で
「イワメ」タイプが複数出ればかなり説得力ありですがどうかなあ?
しかしこれはあくまでも私の勝手で独断的な発想で
ある事をご了承下さい。
ただ一つ確実に言える事はそう言った進化や退化のスピード
よりも環境の変化による渓魚の減少の方が圧倒的に速い!。
と言う訳で「イワメ」はアマゴやヤマメの退化型と考えて
釣りのライフワークとして今後も釣りを楽しもうと思います。
以上、妄想フライフィッシャーのおいかわでした。